ダイの大冒険の魅力は、多岐にわたる。
今回はその中でも、「成長」にフォーカスして考えてみたい。
私が思うに、ダイの大冒険は「究極の成長マンガ」である。本記事は、それがなぜかをお伝えしたい。
それを語る上で、少しだけ前置きをお許しいただきたい。
最近、何人かの方々と「『ついやってしまう』体験のつくりかた」という本を題材にしたオンライン読書会に参加した。この本は、元任天堂でWiiの企画開発に携わった玉樹真一郎さんという方が著者である。「優れた体験デザイン」をデジタルゲームを題材にして解説した一冊だ。ダイの大冒険とは直接関係ないが、非常に学びの多い本なので興味ある方はぜひ手にとっていただきたい。
この読書会で生み出された知見の一つに「ゲームにおける成長とは何か、その定義が重要である」というものがあった。
ゲームにおける成長。
簡単にまとめると以下のような3つの分類になる。
1) ゲームキャラクターやゲーム世界の装置など、ゲームの中における成長
2) プレイヤー自身のゲームプレイスキルの成長
3) 遊んだ結果身につく、ゲーム外で活用されうる資質の成長
便宜的に(1)を、「①レベルアップ」、(2)を、「②プレイの上達」、(3)を「③外部応用化」と呼称する。
具体例を出そう。
レベル式を採用しているRPGにおいて、敵を倒して経験値を積むことでレベルが上がり、戦闘力パラメータが向上する。それにより、次に同じ敵を倒すことが簡単になり、これまで勝てなかった敵も倒せるようになる。
これが①レベルアップに相当する。
マリオカートなどのレースゲーム、ストリートファイターなどの格闘ゲームで、操作技術が熟練した結果、コンピュータ対戦や対人対戦において戦績が向上する。
この場合、ゲーム内のキャラクターは一切強くなっていないが、プレイヤー自身がスキル向上したことが、戦績向上の主因である。
これが、②プレイの上達である。
大人数同時戦闘型オンラインゲーム(フォートナイトなど)で、ゲームに勝つために、果敢にリーダーシップを発揮したり、あるいは友人プレイヤーを教育したりする。その経験が、たとえば現実世界でチームで仕事をするときに、リーダーシップや教育研修能力として、意識的に、あるいは無意識に、応用できる。
これが③外部応用化である。
このように、ざっと考えただけでも、「ゲームでの成長」には、3つの異なる定義が存在するとわかる。
したがって、「ゲームでの成長」という言葉を使う際には、よくよく定義について、注釈をつける、合意をとることをしなくては、議論が噛み合わない恐れがあるといえる。
前置きが長くなった。ようやく本編だ。
マンガ ダイの大冒険を読んでいて気づくこと。
それは、「ゲームにおける3つの異なる成長」と相通じる「複数の異なる成長」を感じ取って楽しめるマンガである、ということだ。
これが感じ取れるマンガは、私の知る限りでは他にほとんどない。
ゆえに「究極の成長マンガ」と呼びたい(あくまで、私にとっては、だ)。
では、ダイの大冒険における複数の成長について考えてみよう。
結論から先にいうと、以下の3つである。
1) マンガで描かれる登場人物の内面的成長
2) 読者がマンガを読み込む、感情を揺さぶられるスキルの成長
3) 読者が仕事やプライベートで活かすことのできるマインドセットの成長
ゲームにおける3つの成長と、ほぼ対応した形になる。
しかし、上述したように、ゲームはジャンルやプレイ体験の性質によって、どの成長が重視されるかはかなり変わってくる。
それが、ダイの大冒険の場合は、1つのマンガを通じて体感されうるということ。
メディアの種類を越えて比較することに意味があるかはさておいて、本作を「究極の成長マンガ」と読んで差し支えないだろうと私は思う。
それぞれの成長を、便宜的に以下に呼ぶ。
①キャラの内面成長 ②読みスキルの向上 ③外部応用化
この①〜③が、ダイの大冒険を読むことを通じて私自身がいかに感じられたかについては、また別の機会に書かせていただきたい。
熱心な本作の読者の方は、その方おひとりおひとりにとっての、本作を通じての「3つの成長」を述べることも楽しんでもらえるのではないか?と考えている。
もし機会があれば、それを聞かせていただけたなら、ファンとしてうれしい。
参考文献