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作品からの学び

噛ませ犬だと思っていませんか? 〜いま再評価されるべきクロコダインの役割〜

戦績だけに着目していては気づけない、「チームにおける役割」をクロコダインがどう果たしたのか深堀りする。

「最初はどすこい」という言葉をご存知でしょうか。これは、ジャンプの王道ストーリーにおいて、主人公の敵キャラとして最初は体が大きい敵やパワータイプの敵を当てるというものです。

私自身この言葉は先週知りました。元ネタは、漫画について語る「漫道コバヤシ」という番組です。これの巻五(ダイの大冒険回)にてタレントのケンドーコバヤシが、ダイの大冒険の原作者である三条陸先生に「何で六団長最初の敵をクロコダイン にしたのか」と質問した際の三条先生の答えが「最初はどすこいというセオリーに則った」という回答でした。ここで「どすこい」とは古くは関西方面で「太い」や「でかい」を意味する言葉です。

すなわち、ジャンプ漫画では、暗黙知を形式知化したものとして「最初はどすこい」が伝統的にあるようです。例えば聖闘士星矢でいうアルデバラン、ドラゴンボールでいうナッパやリクームはその典型例でしょう(リクームとは厳密にはグルドとの後に戦うので2番目ですが)。
言われてみれば納得です。少年ジャンプを読んできた多くの人たちは感覚的に「最初はどすこい」をイメージできるものかと思います。

そこで今回は典型的な「最初はどすこいキャラ」の観点からダイの大冒険のクロコダインの役割について考察をしてみます。

「最初はどすこい」キャラは大きく分けると2パターンに類型化できます。
1つ目は、「やつは我々の中でも最弱」という扱いにするというものです。どすこいキャラを主人公たちがようやく倒したのに、そいつを最弱扱いにすることで、次に控えている敵キャラを引き立てるというものです。
この扱いをされるキャラをその後多くの場合二度と出てきません。これは「ソードマスターヤマト」でも「敵の四天王がいいがち」ということでネタにされています。
もう1つは、主人公たちがどすこいキャラと戦い、その後どすこいキャラが仲間になりつつも、新たな敵が出る度に、対敵キャラにおけるかませ犬にどすこいキャラがなるというものです。その代表例が先述した聖闘士星矢のアルデバランやダイの大冒険のクロコダイン といえます。

前述の「漫道コバヤシ」によると、クロコダインの戦績は1勝8敗です(ネット上では1勝11敗1分の解釈が優勢)。しかも、8連敗してから最後ザボエラにとどめ刺しただけの1勝です(実質的にザボエラを倒したのはロンベルクです。)。もっと早い段階で引退を考えてもおかしくないキャリアです。事実、最後のバーン戦では、クロコダインは実質戦力外通告を受けます。

確かに結果だけを見ると、クロコダインは大した活躍をしていないように見えますが、そのプロセスには大人になってから見ると目を見張るものが多数あります。

第一に、どすこいキャラだけに相手を引き立てるのが抜群に上手ということです。クロコダインの8敗の中の相手には、次のようなキャラがいます。
・ダイ
・ヒュンケル
・フレイザード(鎧化後)
・バラン
上記相手に完敗することで、わかりやすく相手の強さを引き出すことに成功をしています。バランのドラゴニックオーラの凄さは、クロコダインがバランにボコられることによって、少年少女の心に深く印象に残ったのではないでしょうか。

第二に、クロコダインは人格者であることから、敵味方問わず尊敬されていることです。例えば、クロコダイン を評するセリフには次のようなものがあります。

  • 「くわせものの多い六団長の中でもおまえとバランだけは尊敬に値する男だと思っていたが」(ヒュンケル)
  • 「し、信じられん・・・!貴様は ともかくクロコダインまでがダイたちに寝返るとは」(ハドラー)
  • 「残念だぞクロコダイン  私は六団長のなかではお前を最もかっていたのに」(バラン)
  • (ドラゴンを扱うと六団長クラスに強いと言われるパワーファイターのボラホーン に対して)「これで天下無双の力とは笑わせる 俺の仲間にはおまえの倍は腕力の強い奴がいるぞ」(ヒュンケル)
  • 「あの勇猛で名高い獣王クロコダインがいきなり逃げを打つとは」(キルバーン)

つまり、ただの噛ませ犬ではないのです。むしろ強大な敵キャラからも一目おかれることで、格を保ち続けていえます。登場当初はわかりやすい「どすこいキャラ」でしたが、決して「奴は我々の中でも最弱」という扱いにされないことで、クロコダインは8連敗の中でも常に活躍し続けられたのです。

最後にチームプレイがうまく、役割に徹していると言うことがあげられます。実際のところ、クロコダインのおかげでダイたちは何度も難局を乗り越えることができました。
1回目のヒュンケル戦や、1回目と2回目のバラン戦で、もしクロコダインがいなければ、間違いなくダイたちのパーティーは全滅していたほどです。
その中でも特筆すべきがバランとの2回目の戦いです。ダイの記憶が失われる中、バランがダイを取り戻しにきて、絶体絶命の窮地に陥った際にクロコダインは次のセリフを言います。
「バラン・・・、ギガブレイクでこい・・・!」

▲ダイの大冒険(三条陸 / 稲田浩司)文庫版 7巻より引用

ドラゴンの騎士相手にこの台詞を吐けるのは、ダイの大冒険の世界の中でもクロコダインだけでしょう。
そして2発ものギガブレイクを受けてもなお立ち上がるクロコダインに対してバランは敬意を払うかのように以下の感想を言います。
「バ、バカな!!天下の獣王クロコダイン がこの場で捨て石になろうというのかっ!!!」
小学生の頃にダイの大冒険を読んだときは、クロコダインはただの噛ませ犬しか見えませんでしたが、この年になって読むとクロコダインはチームが勝つために自分の役割に徹していたということがわかります。
すなわち、クロコダインは、ダイたちを生かすこと、そして勝たせることが自分の役割ということを誰よりも理解し、自ら最も厳しい環境に身を置くとともに、自分の強みを最大限生かしてきたと言うことです。クロコダイン自身、自分のありたい姿としてのwill、強みを生かしたcan、そしてチーム内におけるrole(役割)の3つをダイのパーティーの中でも早い段階からもっとも体現していたキャラと言えます。

クロコダインは戦績だけ見れば確かに厳しいものですが、ダイたちにとっても、そしてダイの大冒険という漫画にとっても、間違いなく、なくてはならない存在です。
今風に言うとクロコダインの価値はプロセスエコノミーの中にあるとも言えます。ここまで勇猛な「どすこいキャラ」は他のジャンプ漫画でも類を見ないように感じます。今のような時代だからこそクロコダインは再評価されても良いのではないでしょうか。

ダイの大冒険アニメ(2020年版)29話では、クロコダインの「バラン・・・、ギガブレイクでこい・・・!」のセリフが出てきます。
チームにおける役割の重要性を深く感じる回だと思います。昔ダイの大冒険を読んだことがある方は、「最初はどすこい」の究極形を体現したクロコダイン の勇姿を2021年のアニメのクオリティで是非見てみてください。きっと何か感じるものがあるはずです。

以上、「最初はどすこいキャラ」の観点からダイの大冒険のクロコダインの役割について考察でした。


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Shige

作成者: Shige

学生時代は経済学を専攻。金融機関で不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事。現在はスタートアップや地方の企業等の財務支援など行う。経済学関連の読書会も主催。