ダイの大冒険(2020)第78話が放送された。タイトル「地獄からの生還者」。クロコダインがザボエラにとどめをさし、復活してプロモーションを遂げたヒムがヒュンケルを圧倒するまでが描かれた。

冒頭、クロコダインとザボエラの対峙。作中で、屈指の「主役(級)ではない者どうしの決着」が描かれるシーンである。
とりあえず、ザボエラの鼻水がすごい。たしかに原作でも描かれてはいたが、アニメ化されてみると、カラーになってザボエラの体色とのコントラストが出るためもあってか、とても目立つ。

ザボエラとクロコダインのこのシーンの会話は、全体としてはほぼ原作通りだったように思う。やはりここはカットすると成り立たないというか、いやむしろやはりアニメ制作陣がこのシーンがめちゃくちゃ好きなので、丁寧に描ききったと捉えるべきかもしれない。見方を変えるなら、原作時点での三条先生の作ったセリフまわしが音、声としてそのまま演じられる立体感を持っていたとも言えるだろうか。

このザボエラとクロコダインのシーンの魅力というか興味深い点は、ザボエラは徹底的に内言(心のなかで思っていること)がたくさん話されているのに、クロコダインに関してはまったく内言が描かれず、外言(実際に発話された言葉)だけが表現される。これは原作からそうなのだが、読者、視聴者目線としては、このときには憎き妖怪じじいであるザボエラの心中がよくわかり、好漢クロコダインの気持ちがなかなかわからない、という作中であまりないシーンとして受け取れる。まさにザボエラという、謀略と弁舌で生き延びてきたキャラクターが、最後にもっとも謀略から遠かったクロコダインに「だまされて」死ぬという、印象深いシーンとなっているのだ。ここがアニメでもそのとおり描かれていて、よかったなぁと思う。

よく言われる話として、作中における「カタルシスの解放」がある。この文脈でいうなら、暴虐謀略を尽くしてきた敵キャラクターが、正々堂々たる主人公についに打破されることで、読者視聴者が抑圧が解けて解放感を得る、それが快感になる、そういう話だと認識している。
だが、クロコダインがザボエラを討つシーンは、そのカタルシスの解放ではないと私は感じている。
ザボエラはたしかに卑劣キャラとして描かれているが、しかし単に読者からして憎まれるだけの存在ではない。彼自身の生存術、考え方は興味深いし、参考になるところもある。
一方でクロコダインはたしかにめちゃくちゃかっこいいわけだが、だが彼自身がザボエラを倒すことに喜びを覚えていたわけではないことは、今回のエピソードを見ていても改めて感じたところである。むしろ、哀れみを持って、そして自分自身がザボエラのようになった可能性すらも想像しながら、その生き様をメタ的にちょっと引いた視点も持ちながら捉え、バダックに語っていた。そしてそれを聞いて、そんなクロコダインの思慮深さと態度を称えるバダックとの会話もまた、屈指の「主人公級ではない人たち」の物語であるわけだが。
ザボエラとクロコダインの語りと決着は、解放と快感ではなく、経験からいかに学び行動を変えていくかという蓄積の結果を描く話なのではないだろうか。

どうでもいいが、ここでザボエラの調合した毒がクロコダインにかすっていたらどうなっていたのだろう。クロコダインはザボエラの意のままに操られていた?しかし意のままにといっても、ザボエラ自身が体力も魔力も尽きている中で何ができたのかはよくわからない。

さてヒムが復活して、ヒュンケルの顔のアップが出てくるのだが、ここでヒュンケルの顔が、本当に「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」をしている。瞳が小さくなって、びっくり顔だ。原作以上にアニメではここが強調されていた。
しかし、なんでヒムは「鳩が豆鉄砲を食ったような」などというたとえを知っているのだろう。生まれて数ヶ月も経っていないのに、物知りである。あとそもそも鳩が豆鉄砲を食った、って、不思議な日本語だなとおもったけど(笑)。

ヒムが回想の中で落下して、意識が沈んでいくシーンで、原作と違ってアニメでは、水中を沈んでいく描写として表現されていたのが面白かった。ヒムの中では、水の底に沈むものとして死を捉えているのかもしれない。ポップがかつてメガンテをしかけたときには、雲の上を歩いていき死の国にいって帰れなくなる、という表現だった覚えがあるが、このあたりもキャラクターによってなのか、ダメージを受けた原因によってなのか、死に近づいたという表現も様々のようだ。

しかし、ヒムとヒュンケルの会話というか、ヒムの演説というかを、魔界のモンスターたちはしっかり待って聞いてくれている。律儀なモンスターたちである。

アンクルホーンのパンチを受けてヒムの頭がヒビが入って、プロモーションにつながっていくシーン。なんと、赤い炎のようなものがヒムの頭から立ち上り、それがはけると、銀色の髪になっている。この赤い炎のような表現はアニメオリジナルの演出で興味深かった。原作だと一瞬で髪が生えているので。

ヒムのモンスター退治、ここで流れている音楽が荘厳である。原作だとグルングルン各方面にパンチを打ってモンスターをふっとばしているところが描かれるが、アニメでは、なんかオーラの爆発?のようなものを起こしてモンスターをぶっ飛ばしているようにも見えた。ここの違いもなかなか面白い。グランドクルスをのちにヒムは撃てるが、その萌芽のようなものがここででていたのだろうか。

後半パートになると、原作と違ってクロコダインがガルーダをねぎらうシーンが入っていた。これは面白かった。たしかに、なぜガルーダがこのあと原作でクロコダインをバーンパレスに連れて行かなかったというと、理由がよくわからなかったが、たたかいで疲れていたなら納得である。

あとはさらにアニオリとして、チウが「なんでもいいから回復アイテムを入れてくれ」といって回復アイテムを集めていた。これも面白い。このシーンによって、アイテムをかき集めてなんとかチウたちを送り出す程度の回復をできたということがわかるし、あとはチウというキャラのリーダーシップも描かれていて、味がある。

また、さっさとバーンパレスについたあとで、チウが部下のモンスターたちを地上に戻してあげるというシーンもアニオリで入っていた。ここで、クロコダインが「大物になるかも」とチウを評する。これ、原作ではおにこぞうA、Bに対しての振る舞いだったので、おにこぞうがカットになったアニメ版ではでてこないのかとおもったら、違う形で生かしていたのがうまい演出だと思った。

さて場面はまたヒュンケルとヒムの闘いに戻る。不思議なのは、ヒムのアッパーをもらったヒュンケルが、全然吹っ飛ばず、アッパーをもらった状態で微動だにしないところである。このヒムのパンチ力なら、100メートルくらい吹っ飛んでも全然おかしくない気がするが。原作でもここはこうだったけどアニメで微動だにしない描写が出てくるとなんか気になってしまった。

あとはアニメでいいなぁと思ったのは風になびくヒムの銀髪である。アニメ版、とくにバーンパレスに主人公たちが来てからは、風が描かれるシーがおおいのがいいなぁと思ったが、今回もここで風の描写がいい味を出している。まあツッコミをいれるとするなら、金属でできているヒムって髪の毛も重そうなんだけど、そこはそよ風でなびくのか!?気になる(笑)。


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