ダイの大冒険(2020)第76話「正義の快進撃」が放送された。バーンパレスに入った一行が、途中休憩を挟んで、アバンとレオナが罠潰しにでかけた。一方地上ではミストバーンに捨てられ、追い詰められたザボエラが超魔ゾンビと化して、形勢逆転、というところが描かれた。

冒頭、アバンとダイが、扉の開けたことを巡って、力と正義に関して語り合うシーン。ある意味で、アバン復活後にはじめてまともにダイとアバンの語り合ったシーンといえる。ここで話す内容が、力と正義の関係だということは、これは改めて示唆深い。特に、原作読者でこのあとの展開、すなわち最後のダイとバーンの決戦において、「力だけが正義」というバーンに、最大限の力でその無常さを叩き込むダイのことを思い浮かべるとき、この伏線の恐ろしさになんともいえない気持ちになるものだ。
そのあと、アバンは遠くでモンスターを撃退するヒュンケルと目を合わせて、軽く一礼をして走っていく。実は私は原作を読んでいたなかで、この礼のことを気づいていなかった。セリフのないシーンであるためだったと思うが、さて改めて描かれてみるといいシーンである。

そして「一介の戦士に戻る」というヒュンケルだが、ここでアバンのことを「本当の父親」と評するのが興味深い。これは原作でもそうだし、アニメでもそのままであった。たしかにアバンはダイたちにとって師ではあるが、はたして父親なのかというと、あまりそういう印象はない。ダイの父はバランであると、その死の間際に心は通じたわけだし、ポップの父はジャンクであり、マァムの父はロカである。みなそれぞれ、顔の見える父親がいるなかで、「本当の父親」というのはどういうことなのか。
これは、別に血縁的な意味での父親だと言っているわけではないと捉えるのがいいのだろう。あくまで「父のような存在」として、と捉えると、アバンの使徒たちにとって、それはアバンに他ならない、と言いたいのかもしれない。ヒュンケルにとってはバルトスが父であったが、そのバルトスの死後に教えを授けてくれた存在がアバンだった。もちろん当時のヒュンケルにとってはバルトスの敵だと思ってはいたものの、一方でかつてミストバーンが見抜いたように、アバンに対する憧れや敬意がなかったといったら嘘になる。そのように、憧れや敬意を持つ存在のことを、ヒュンケルの言葉では「本当の父親」というのかもしれない。

アバンたちが休憩をとろうとするところ。ここで視聴者の多くが驚愕したことだろう。アバンが手に持っていたものは、なんと魔法の筒!たしかに原作読者にとって、アバンはどうやってあの大量の弁当や食器を持参したのかというのが気になっていたわけだが、まさか魔法の筒で運搬するという方法をアニメで示してくれるとは思ってもみなかった。
しかし、魔法の筒、ほんとになんでもありだな。便利すぎる(笑)。これができるなら、仲間たちも片っ端から魔法の筒に入れてルーラでもして襲撃すれば、敵の意表をつくこともかんたんのような気がするが…。さらにこのあと、ザボエラ撃破後に、何人かでバーンパレスに乗り込んでいこうというシーンがあるが、そのときも魔法の筒を使えばもっとたくさん行けたんじゃないかという気もしてしまう(笑)。まあ、筒に閉じ込められたくはないかもしれないが。

さて場面は変わってバーンの玉座では、ついに守護神、じゃなくて掃除屋のマキシマムさんが登場である。これ漫画のときから思っていたけど、バーンの後ろの黒幕的なところにマキシマムの影が映るのは、いいんだろうかそれで。見方によっては、バーンよりもえらい人ということに見えないか。もちろん2人の会話の中身を聞けばバーンのほうが主人であることは明白ではあるのだが。
しかし、まさかマキシマムの声が玄田哲章さんだとは思わなかった(笑)。あ、いやじつはまだエンディングのキャスト一覧には名前がないから確定ではないんだけど、多分そう。これは、無駄に強そうなマキシマム。どうしてもやっぱりターミネーターのT-800とかの強キャラの印象あるじゃないですか。

アバンがキルバーンのトラップを壊しに行こうとするところ。ここで登場する謎の木槌。これも原作読者たちは「いったいこの木槌はなんなのか」と思っていたわけだが、まさか今回、そのアイテムに「罠つぶしのハンマー」という名前が与えられるとは。これもびっくりである。これはおそらく破邪の洞窟でゲットしてきたものだと思われるが、しかし外見はただの木槌にしか見えないのにいったいどんな仕組みで罠が潰せるのか。謎である。トルネコのダンジョンや、風来のシレンなどに出てくる特別な武器やアイテムがあるが、それらのゲーム的なミームを今回アニメの中に再び取り入れたという印象もある。

さてBパートになると、地上が映り、ここでは最後に人間たちが残り少なくなったモンスターを倒そうとするところが描かれる。チウもズタズタヌンチャクを振り回し、敵を撃破する。原作ではほぼすでにこの時点でモンスターを倒し終わっているので、多少進行の順番が入れ違っていることは前回のエピソードからの継続だ。ただしここでは原作で、チウを挑発しつつも、途中からチウの粘りとガッツに圧倒されていたおにこぞうAとBはやはりカットされていた。これは何話か前の時点で登場していなかったので、当然カットだろうとは思っていたが。

このあとミストバーンから捨てられたザボエラが、瀕死の魔界のモンスターたちにエネルギー弾のような攻撃魔法でとどめを刺そうとするシーン。ここで原作ではチウがおにこぞうたちをかばうシーンがあるわけだが、もちろんそんなシーンはアニメにはない。このあと、ザボエラが死んだモンスターたちを超魔合成で集めようとするシーンで、なんとまあ、おにこぞうの死体も宙を漂っている。ああ、この世界線ではおにこぞうたちは生き残ることができなかったのか。
もちろん、ドラクエのモンスターである以上、ある種族のモンスターが1-2体しかその場にいない、ということはむしろ考えにくく、たくさんおにこぞうもいたのだと考えると、原作のおにこぞうA、Bとはそもそも違う個体なんじゃないのかと言われたら、それはそうなのかもしれないが。

しかしこの、チウがおにこぞうをかばうシーンがなくなったことで、改めてはっきりしたことがある。すなわち、原作漫画と、2020年版アニメというのは、完全にイコールなストーリーではない、ということだ。
たしかに今回のアニメ版は、これまで1年半見てきてわかったとおり、原作愛の強い制作陣が最大限のリスペクトで作っているすばらしい作品なのだが、であるからこそ、そこには「新しい解釈」が存分に入れられてもいる。これまでにもそういうシーンは随所にあったわけではあるが、今回のおにこぞうの描かれ方(というか描かれなかったこと)が、個人的には一番「原作とアニメは別世界線である」ということを感じさせた。
少なくとも、ダイの大冒険には4つの世界線があることになる。1つめは原作、2つめは91年夏に公開された旧作アニメの「オリジナル」映画、3つめ91年から放送されて打ち切られた旧TV版アニメ、そして4つめが今回の2020年版アニメである(勇者アバンと獄炎の魔王に関しては、漫画しかない現時点では、漫画の世界線と同一だと考えるのがよかろう)。
すでに公式作品だけでも4つの世界線がある以上、このあとのアニメの展開にしても、必ずしも原作とまったく同じということはないのではないか?むしろそこが私としては期待を持つところでもある。

さて、ザボエラが死体を集めて超魔ゾンビになろうとするわけだが、ここは原作と違ってカラーのアニメなので、変身途中がカラフルで、より気持ち悪い感じが出ていた。
原作を読んでいたときから、もちろんザボエラというのは卑劣キャラだというのはみんな認識していたわけだが、なぜだろう、今回アニメになるとそこがより顕著に感じられるようだ。もちろんこれはダイ好きTVでも触れられていたが、ザボエラ役の声優岩田光央さんの怪演も大いに奏功しているとは思うが、物語の展開としても、だいたいいいところで盛大に水をぶっかけるというか、物語を単純に進ませようとしない、利己主義の帝王ザボエラのスタンドプレーがなぜかアニメだとより一層感じられる。私欲、権力欲に徹底的に忠実で、そのためならなんでもありというザボエラは、むしろ大人になった我々からすると、こんなことは実はそうそうできないよ、という意味で目を引いてしまうのかもしれない。

そういえば、原作でもそうだったし、今回のアニメでも思ったけど、エピソードタイトルの「正義の快進撃」って、そんなに快進撃だったところが今回あっただろうか。多分地上で人間たちが魔界のモンスターに勝利寸前までいったところを評しているのではないかと予想しているのだが、しかしこのあとザボエラがどんでん返ししてこようとすることを考えると、果たして快進撃なのかというと怪しい(笑)。

今回、本編終了後の次回予告で、ノヴァが生命の剣を発動して命をかけるシーンがあるが、その一瞬が映っただけでなんとまぁ私は涙ぐんでしまった。やっぱこの、力なきノヴァが(いやもちろん普通の人間たちよりはずっと強いんだけど、アバンの使徒や魔族のトップに比べるとだいぶ力はない)生命をかける意味を見出して、そこに殉じようとするというのは泣けるんだよね。次回が楽しみだ。


【Podcast】 Cast a Radio 「ダイの大冒険」を語る