ダイの大冒険(2020)第99話が放送された。タイトル「この腕で勝利を」。ダイとバーンの死闘によってバーンパレスが崩壊するなか、パレスの心臓部に落とされたポップ達がなんとか脱出を果たして地上に生還する一方で、バーンが鬼眼王と化してダイと最後の決戦をしかけるところまでが描かれた。

冒頭、パーンパレスがみるみる崩壊する。ここではおそらくCGを使っているのだと思うが、かつてテラン城が崩壊していったときを思い出した。ただし、このパーンパレスのサイズは超巨大であることを考えると、この闘いのすさまじさが改めて分かる。

ダイとバーンの肉弾戦。原作だと「咆哮!」の回の最後に無言の大ゴマ見開きとして描かれたバトルのところだと思うが、アニメでは動きと音、声、そしてアニメーションの様々なエフェクトとともに、その迫力が伝わる。とくにこの闘いが両者「空中戦」であるという設定で描いてるのがよいなと思った。双竜紋ダイとバーンで一度肉弾戦をしているところが描かれているが、そのときには地に足をつけたインファイトであり、どちらかというと格闘モノっぽさがあった。対して今回は両者空中で、地上戦のときと対比するとどれだけ力をぶつけあっているのかが分かるなと思う。

地上の一行に一瞬シーンが移り、そこでメルルが「ポップさんとのつながりが」というアニメオリジナルの一言が入っているのが面白いなと思った。ということは、ポップとレオナがおそらく魔宮深く落とされるまでは交信できていた、ということになるだろうか。これが、魔宮に落とされたことで情報遮断のようなかたちになったのか、ゴメちゃんの力が失われたからなのか、あるいはその両方なのかもっと別の理由もあるのかわからないが。

そして、黒い画面になり、きらめく光から視界が広がるところ。いやたしかに原作読者はここがラーハルトの目が覚めるシーンだというのはわかったと思うけど、なんかこんなきらめく起き方だったんだと、というのがちょっとおもしろいなと思った(笑)。
バーンパレスの心臓部は思った以上に暗い色だった。いやたしかに、光はないから実質的には真っ暗だから、「正しく」描こうとすると真っ黒で何も見えないのかもしれないがそれじゃアニメにならないので、こういう描き方なのだろうと思う。ただ逆に原作を読んでいた時点では勝手に、もっと白っぽい、明るい感じを想像していたので「そうか、光がなかったら暗くて当たり前だわ!」ということにアニメを観てようやく気づかせてもらったというほうが正しいかも。

マァムの閃華裂光拳に続き、クロコダインの助走パンチ!おそらくこれは作中におけるクロコダインの最後の一撃であろう。前野さんの声とともに、これを心に刻んでおきたい(効かなかったけど…)。

アバンの推測で「大魔王に致命的なダメージを与えるか魔力の源を断った」と語られるが、実際には前者でも後者でもないような気がしている。たしかにダイが手刀でツノをぶった切ったことによって鬼眼の色が消えたりしたが、源を断った、というのは言い過ぎな気がする。ツノが折れて、魔力を周囲に伝播させる力が失われた、という感じなのだろうか。バーンのツノは、バーンパレスにおける東京タワーみたいなものだったのかもしれない…。

このあとポップが作中最後のメドローアを放つ。ダイ好きTVでも語られていたが「メド」のところに溜めが入るメドローアであった。
ただこれ、ポップはバーンとの闘いの天地魔闘の構えを受け切るときに魔法力をだいたい使い果たした気がするので、ここでメドローアが打てるのは、アバンまたはレオナからシルバーフェザーをもらって回復したから、と考えるべきなんだろうか。ただそれにしてはクラっと来てしまうのは、そこは魔法力というより、激しい闘いによる疲労や精神的な「打つ手がないかもしれない」という不安がそうさせたということかもしれない。ただこれも、かつてのポップだったら「もうだめだ〜」と言っていた所であろうが「まだまだ頭は回るぜ」と自信を持っていい切れるのがかっこいいなーと改めて思う。

このあとクロコダインが「まるで通じん」と言ってしまうところでポップが頭の冴えを見せて、傷はつくことを指摘するところ。ここ、闘気技なら、とポップは言うが、闘気を使わずにスピードや技の冴えで圧倒するタイプ、要するにラーハルトはどうだったのだろうか。ハーケンディストールを使えば相当ぶった切れるのでは?と思ったけど、魔法でも闘気でもない「切れ味鋭い技」はこの壁には通じなかったのか?ちょっと気になる。と思ったけどそうか、単純にバーンの天地魔闘の構えで魔槍が壊されてたってことか…。そもそもハーケンディストールを試すことすらできなかったのかも。

クロコダインが原作で「残念だがたとえオレが5人いたところで」と言っていたセリフはアニメではなかった。仕方ないが、しかしドルオーラの威力を納得感高く感じさせる(そしてクロコダインの分析力が光る)結構好きなセリフだったなーと気づいた(笑)。

アバンがポップに言われてグランドクルスを放とうとするところ。ここでポップが「わーい」と何回か言って無邪気に喜ぶシーンが描かれていた。えっこんなん原作にあったっけ?と思って読み返すと、なるほどたしかに手書き文字で「わーいわーい」と書いてあった。これはまったく気づいてなかった。これも、アニメになったことで(そしてそこを描くという演出をしてくれたことで)初めて気づいた原作のひとつの面白い場面だった。そしてアニメでは豊永さんが、ここでは妙にテンション高く喜びの演技を入れた。音楽とともに、この状況下での妙な明るさはヒュンケルの一言によりピタリと止まる。これが、原作以上に、音と動きのあるアニメだからこそヒュンケルの「言わなきゃいけない大事なこと」なんだと伝わってきた。

アバンがこのあとで「不可能に挑戦させてもらいますよ」というところ、ここのアバンの表情が原作とアニメで随分違うのが興味深かった。原作ではアバンは厳しい顔をして、冷や汗をかきながらこれを言う。だがアニメでは、悟ったような笑顔でむしろ朗らかにこのセリフを言っていた。どっちの心的解釈も確かに成り立つなぁと思う。当然アバンとはいえ死ぬかもしれない技で恐怖を感じないわけはない、だが一方で状況下で皆を救うために挑戦することにはためらいがない、というこれもまたアバンらしさだと思う。アニメとしては今回、より後者の側のアバンの内面にフォーカスしたのかもしれない。

そして満を持してのヒム登場である。光の闘気を腕に集中させるヒムのこのかっこよさといったらない。そして、「本当いうとおまえらを好きになっちまった」の一連のセリフがもうめちゃくちゃグッと来る。今回のアニメの一番のグッと来るポイントは個人的にはここだった。
ヒュンケルから鉄仮面と評されたヒムが、いまや仲間を救うために自ら犠牲になることも覚悟で、そのヒュンケルの持ち技を使おうとする。ダイの大冒険の物語で、いわゆる「敵」から味方になったキャラは何人もいるが、この最後の最後まで「味方」だということを言及してこなかったヒムが、この土壇場でそれを言語化して、行動に移すというこのシーンの胸アツはすごい。
なぜ原作で三条先生はここで魔宮からの脱出の切り札をヒムのグランドクルスにしたのか。別にポップがメドローアで破っても良かったし、ヒュンケルとアバンの師弟グランドクルスでも良かった気もする(そう、かつてバランとダイが同時斬撃で海底の魔宮の門を打ち砕いたように、2人以上のタイミングを合わせた攻撃で威力を高めるという方法もあった気がするのだ)。だがそうではなく、ここはヒムの出番だった。
思うに、ハドラーの思いを一番強く受け継いだヒムがここでポップたちを救うために自らの命をかけた大技を使うということが、それはハドラー+親衛騎団全員からの、ダイたちへの「お礼」なんじゃないかと。すなわち、ハドラーの最後の挑戦をダイが引き受け、伝説に残る死闘を演じ、生き様を語り継いでくれることへの礼だ。

声優の三木さんの「てめえが不死身なら、不死身なら、おれもまた不死身だ!」の魂の演技からのグランドクルス。原作以上にヒムが粉々になってしまう感じがした。これは初見だとヒムが死んだと思ってもおかしくないかも。
しかしここまで書いて思ったけど、やっぱりヒムが撃つ瞬間に「不死身だ!」と言っていることから、これは捨身技じゃなかったと思うべきだろうな。これはかつてのアバンやポップのメガンテとは違う気がしてきた。ヒムのグランドクルスは自爆ではなくて、自らも含めてみんなを生かすための「皆命」の技なんだ。

そしてそこからの、ポップとアバンのルーラ。いわゆる?「ダブルーラ」。私は原作で、ポップひとりがルーラしたと完全に思い込んでいたので、ここもアニメでこのダブルーラの声を聞いて、妙に納得した。たしかにあれだけの人数をうまいこと脱出させるにはダブルーラは正解だろう。ただ、それは完璧なタイミングである必要があり、さすがそこは師弟というべきか。というより実はコレ、ポップとアバンという師弟の本当に意味での「初めての共同作戦」だったんじゃないかと思った。いままでなんだかんだいってほとんど一緒に戦ってないし。そう思うとまたここも感慨深い。

地上に戻れたチウの「永久欠番」発言。ここは上述のように、本当にヒムが死んだと思っていたのかどうかというと、実はちょっとわからないなと思っている。というのは、やはりアニメだとあのゴメちゃんの死のときのチウの涙の印象が強すぎて(いまもちょっと思い出し泣きしてしまった)それと対比すると今回の涙はちょっと「切り替え早く」見える部分もある(笑)。ただあれなのかも、チウ自身がゴメちゃんという部下を喪失しつつ、その最後の行動でみんなを救ったということの経験を受けて、「仲間を救うために死んだ」部下に対して、泣くばかりではなくて感謝を伝えたいと思うようになった、というふうに想像すれば、このチウの発言はおかしくないのかもしれないなと思った。
まあ今回に関しては、ヒムは元気ではあるので、むしろギャグ的に作用しているわけだけども(笑)。
どうでもいいけど、このダイの大冒険世界での永久欠番ってなんのことなんだろうか。野球とかバスケとかのスポーツはないと思うんだけど(笑)。

Bパートに入り、地上で人々が再開を喜ぶシーン。ここではダイ好きTVで豊永さんから裏話が語られていたが、実はアドリブでいろんなガヤを録っていたとのことで。いま改めてそのシーンを観てみたけど、聞いてみたけど、あまり細かくは聞き取れなかった(笑)。

その喜びの再開の場面から、フローラとアバンの再開の一コマというギャグも入ったところで、ロン・ベルクの一言で音楽が止まり、また場面がシリアスになっていく。
これは前半における脱出のときと同じようなテンポ、感情、場面のスイッチのさせ方であり、今回のエピソードの中でキャラクターたちの心情が様々に変化したことを改めて感じる。

ヒュンケルがポップに語りかけるシーン。ここも、前半にあったヒュンケルの声がけと重なるところを感じた。もちろん今回はあくまでポップの気持ちを支える意味でのヒュンケルの言葉ではあるのだが。改めて今回のエピソードでヒュンケルという存在の使徒たちの中における大きさを感じる。

そして場面はダイとバーンの「宇宙空間」(?)の闘いに移る。
「勝てぬ…」とかすれる声でいうバーンの追い込まれぶりが象徴的だ。
そして額にに指を突っ込んだところから、白く光る血?が出て、それが鬼眼王の身体を創っていくような描写が、原作を読んでいたときとも異なる印象を受けた。
ここからだんだんと流れていく音楽がすごい。これは劇伴作家の林ゆうきさんがツイートで語るところによると「僕が今までやったすべてのゲームのボス戦の記憶を凝縮して作りました」だそうで、たしかにゲームのラスボス感があり、バーンの決意とマッチして、恐ろしさと荘厳さが伝わってくる。

なおここでバーンが超魔ハドラーに言及したセリフが出るが、これがアニメオリジナルであった。原作ではハドラーに対する言及はない。面白いのが「あのときの余に」という表現をしていて、つまり今の自分には全然及ばないけど、ということを言外にしっかりにじませていることである。やはりバーンにとっては強さが正義であり、その強さのランク基準(?)は結構キッチリしたものなのかもしれない。
ともするとバトル漫画と呼ばれる作品は、キャラクターの強さランキング論がネットで取り上げられることも多い。いや正直にいえば私も若かりし頃はそういう議論が好きだったし、今も別に全然きらいじゃない(笑)。なんだけど、そもそも作中のキャラクターが強さということをどう捉えているのかとか、作者が何を表現しようとしたとか、あるいはアニメで言えばそのアニメ制作チームや声優さんがなにを込めようとしていたかというほうにより興味が向くようになってきた。そのうえで、このバーンのセリフを捉えると、なるほどここにはバーンの価値観である、強い者には敬意を払うし、覚えているが、実際自分が最強だと思っているしそことの実力差は正確に認識して、自分の強さを主張していきたいという気持ちの強さに驚かされる。

そういえばダイの吐血する血は赤かったな。やはりダイは竜魔人となっても人間に近いということなのだろう。

このあとのシーン、鬼眼王の両肩から上方に赤いビームがたくさん出てダイを攻撃したシーンがあるが、これも多分アニメオリジナルだ。いやー、なんというか、モビルスーツっぽい気もするかも(笑)。いや別にこれはいい意味でというか、ある意味で鬼岩城自体が巨大ロボット味があったというか多分意図的にそう描いているから、それをイメージは同じようなものだとバーンが言っているんだから別にロボットっぽく感じいいと思うんだけども(笑)。目の赤い光も含めて、ジオングとビグザムが混ざったような感もある。
そして両腕を広げているバーンの姿を見ると、ああこれはなんというか「十字架」っぽい気がした。原作を読んでいたときにはあまり感じなかった印象である。バーンはある意味で宿命と願望に自らをすべて一体化させたという意味では、自分自身、そして力という神への殉教者なのかもしれない。

ここからのバーンとダイのバトルのダイナミックな表現、そして声優さんの演技のすごさが圧巻であった。特にバーン役の子安さんの狂気すら感じさせる演技。「砕けて散れ!ダイ!」のところはもう完全にバーンから知性や理性、計画性といったものはなく、それこそ自分自身の力とダイへの勝利だけを希求する怪物ぶりを感じた。

そこからの「全開!ドラゴニックオーラ!」でまた音楽が変わり、バーンへのドルオーラが放たれて大爆発するところで終わり。
ここで終わるか!

エンディングで描かれるシーンの数々がもう、なんという遠い過去というか、戻れない日常を感じさせて、その「戻れなさ」に震える。ゴメちゃんも含めて。

そして今回の次回予告。これは最後の次回予告なのだが…。まさかのダイの剣が刺さっている例のシーンだけ!(風がなびく以外動きなし)まじか!これは震えた…。

ということで次回が最終回。タイトルは「さらば!愛する地上よ」
終わる…!


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