ダイの大冒険(2020)第98話が放送された。タイトル「ダイの決断」。偽勇者たちがオーザムの柱の爆発を食い止めることに成功したのち、バーン打倒のためにダイが双竜紋を全開にして竜魔人となってバーンとの1対1の闘いに挑むところまでが描かれた。

今回は非公式スペースや関係者の方のツイッターでも語られていたりもしたが、演出がいつもと違う形をとることが多かった。
まず始まりからして、エピソードタイトルのイントロなし。いきなりピラァが映る。そして塔の上部でモンスターが偽勇者たちに「焼け死ね!」と迫る。ここは原作だともうちょっとどうするかを訊いてくれたのだが(笑)アニメでは尺の都合やテンポの観点などおそらく様々な理由でセリフがシンプルになっていた。そこに「そいつはどうかな」といってマトリフが登場してモンスターをメドローアで消し飛ばす。
なお、このモンスターはエンディングで「ジャミラス」と明記されていた。ついに、公式にこのモンスターがなんだったのか確定した。しかしジャミラスというとゲームでは結構強いボス級モンスターだったわけだが、ダイ大世界だとどれくらいのランクなんだろうか?

「おめえがやれ」とマトリフに言われるも、動けないまぞっほ。そこに不気味に黒の核晶が光って、あやしい音を立てて鳴動する。そこにでろりんがまぞっほの耳をつかんで声をかける。
ここで一瞬バーンパレスに場面が戻り、きらめく中でバーンが地上の核晶に魔力を放とうとするが、同時にでろりん、まぞっほ、ずるぼんの3人が核晶を止めるべくヒャド系呪文を放つ瞬間が重なる。
改めて、最強の大魔王と、人間たちの中でも決して強いほうとはいえずなんならずっと卑怯者扱いされていた偽勇者たちがここで間接的にとはいえぶつかるというシーンの面白さ。これを物語に組み込んだ三条先生のすごさを感じる。
なお原作では、私は勝手に、ヒャドを使ったのはまぞっほとでろりんなのかな?と思っていた。僧侶であるはずのずるぼんがヒャドは使えないような気がしたからだ。しかしアニメでは今回3人で魔法を使っていたように描かれていた。となるとずるぼんもヒャド系呪文を使えるのだろうか。そう考えると、実は僧侶ではなくて、なんかもっと特別な職業だったり資質があったりするのだろうか?またでろりんもそもそも偽勇者なわけで、勇者ではないんだよなぁと思いつつ、最初の登場時にイオラを使っていたり、今回ヒャド系呪文を使っていたあたり、結構多才である。実は偽勇者一行、結構天才なんじゃないのか。

そして原作における「その瞬間、世界が輝いた!」の瞬間。アニメではそのセリフはなかったが、たしかに輝きは描かれた。爆発を止めたあと、黄金色の光が世界に差し込む。この瞬間の魔法使いフォブスターがめちゃくちゃクールでかっこいい(笑)。

ゴメちゃんが光となって消えていく瞬間の、チウの涙を流す姿がグッとくる。彼の部下は、世界を救うために「戦死」したといってもいいのかもしれない。初めて受ける部下の喪失の重さがそこにはある。ある意味でここは部下の命をなんとも思わず、それこそ数千年の忠臣ミストの消滅にすらなんのリアクションも示さなかったバーンとの対比で見ると興味深い。

ゴメちゃんが「ピー!」という鳴き声とともに空に去っていくのち、日が沈む。そして画面が暗くなり、沈む寸前の夕日が遠くに見えるが、ここから展開としてはバーンが主導権を持つような流れになる。結局のところ、力では自分が上であり、「皆殺しにする」と宣言するバーンの確信がダイたちを動揺させる。ここで流れる音楽の怖さ、そしてバーンを演じる子安さんの自信たっぷりの声含めて、結局勝てない、ということを視聴者にも印象づける。
そしてバーンの高笑いで、Aパートが終わる。

なお、このAパートの終わりとBパートの入もアイキャッチなし。冒頭に続き、ここでも今回のエピソードの印象を強めつつ、なんとか盛り盛りの内容を収めきろうとした制作の方々の苦労が伺える。
いくつか原作のセリフ、シーンが削られている箇所があるわけだが、もうこれは制作の方々のここまでの圧倒的な熱量でのアニメ化というものを見せ続けられ、楽しませ続けてもらった今、そこに文句を言うのはもう野暮でしかない。ということでまったく文句はないのだが、このダイログではたんに比較としてちょっと触れておきたい。
原作にあったレオナとポップの「殺られるだろうな」「ヤツも弱っているとはいえおれたちのダメージはそれ以上だ」というあたりは、状況判断の天才として認知されたポップが言うからこそ、もう決定的な事実なんだという重みがあったなぁと改めて思った。

またこのあとバーンが「あがくかダイ」というところに続いて「今にして思えば理解できる おまえのその異常にあきらめの悪いところは人間の血だったというわけだ」というセリフもカットされていた。ここもある意味でバーンが「人間はすごい」といい出した(でも別に尊敬はしていないのだが)というところにかかってのバーンの厭味ったらしさを改めて印象づけるセリフだったなと思う。しかしまあこのセリフがなくても今回のアニメでの真バーンはとりわけ嫌なやつだということを表現してくれているので、ある意味ここもクオリティのアニメの力で、セリフをすべて拾わなくても十分場面に説得力があるということをすごいと思うのだ。

このあと、ポップがレオナの胸が露出しているところに気づいてしまい、レオナからビンタを浴びるシーンは、これはもう完全カットだが、それはもう大納得である。このアニメ作品は、子どもたち、そして世界中のあらゆる文化圏のファンたちに届けるものとして作られているのだから。むしろカットされていないほうがヒヤヒヤしてしまうので(笑)。

どうでもいいがこのあとのバーンの薄ら笑顔が妙にいい顔なのがまたムカつく(笑)。

また、ダイが双竜紋を光らせるときのポップの驚きのセリフはアニメでも描かれていたがそのあとのレオナの解説はさっぱりとカットされていた。まあたしかにこれも流れ、リズムとしてはなくてもいいのかもしれない。加えてそのあとのポップの驚きの内言もカットとなっていた。

さらにダイが竜魔人化の可能性に言及するところでも、双竜紋の共鳴の危険性についての解説の話はなくなっていた。このセリフは結構興味深くて、ゴロアの話もここでちょっと出てくるのだが、まあたしかになくてもいいはいいというか、ちゃんとゴロアの闘いのときに、アニメでダイが無意識でゴロアを殺そうとしていた所を描いてくれていたので、アニメファンはそこを見返したら分かるのだ。

どうでもいいんだけどこのときゴロアってなにしてるんだろ。バーンパレスの下のほうのフロアあたりを逃げ回っているんだろうか…。

このあとダイが竜魔人化がいやなんだと語るところで、アニメではダイの目の辺りが黒くなっていて表情が読み取りにくい描き方をされていた。これは視聴者にダイの胸中を想像させるというかセリフの響きを感じさせるというか、そういう意味でもよかったなぁと思う。
そこから辛さを感じるダイの目が描かれ、ポップが後ろからダイを抱きかかえる。このときのポップとダイの会話、原作だとそこまで実は個人的に刺さっているシーンではなかったのだが、アニメでキャストの方の名演と音楽を含めて聴くと、いやぁいいシーンだなぁと思わされた。

そして2人を落とし穴におとして馬鹿笑いするバーン。からのダイが紋章を1つにするシーンにつながるが。
どうしてここでバーンは過剰な挑発をしてしまったのだろうか。ダイが竜魔人化できることはある程度想像がついたしリアリティがあったと思うのだが、いくらなんでもバーンは必要ないレベルまで挑発しすぎだ。原作を読んでいたときにはそこまで思わなかったがアニメの子安バーンの声で聴くと、その挑発ぶりに気づく。
1つの可能性として、本当にバーンは「闘い」に心躍らせていたというか、心狂わされていたのかもしれないなと思う。老バーン状態のときは肉体に本来の力もなく、知略をメインに闘いや計画を進めていたが真バーンとなってからはあふれるパワー、あるいは力を発揮する鬼眼に思考が支配されて、闘いを渇望するような状態だったのかもしれない。そこで、ダイにも無駄な挑発をすることで、ダイの竜魔人化を後押ししてしまった面がありそうだ。

そしてダイの紋章が1つになるところでは、原作だとナレーションがあったが、アニメではダイが説明するような形になっていた。ダイの両腕が宇宙のような色となって、そのなかの血管を青いオーラが走るような演出は完全にアニメオリジナルで、ここは興味深かった。たしかに紋章が血管を伝ってダイの額に戻っていく流れが、印象的に感じた。サウンドエフェクトも良かった。

バーンが「なんというオーラ」というセリフが入っていたのが面白かった。この状態のダイのオーラ量が異常なほど多いということがバーンによっても語られた。

カラミティエンドをダイがあっさりと右腕で受け止めるシーン。ここの描き方がダイナミックですごくかっこよかったとの、あと改めて竜魔人ダイが異常な強さになっているんだなぁと感じた。これまでカラミティエンドはどうやっても止めようがないバーンの最強打撃だったのだが、それがただの右手ブロックで止まるというのは考えてみれば恐ろしい。そして角をぶったぎられたバーンの滝汗。

そしてダイの猛攻が始まり、ダイの大冒険作中における屈指の名台詞を種崎さんが魂の名演で叫ぶ。「こんなものが正義であってたまるか!」と。
前回97話でゴメちゃんと意識世界で語り合っていた優しくて純粋な少年が、一番ダイのありたい姿なのだったとするなら、今回の98話での竜魔人化した暴力の化身とも言えるダイは、もっともダイがそうなりたくない姿なのかもしれない。だが、それでも地上のすべての生き物の明日のために、自分が暴力を振るうしかない。この絶望感、哀しみがダイから溢れている。ダイ好きTVでもそのあたりの苦労と思いが語られていたが、改めて種崎さんの2年間のダイとしての道のりを心から尊敬である。

ふと思うけど、それでもこの哀しみに満ちたダイの叫びもバーンには全然刺さってないと言うか、バーンの「力は正義」という信念は何も変わっていないんだよなと思わされる。「こんなものが正義であってたまるか」はダイの本心だが、それはバーンには届かない。しかるに、この2人は決して並び立つことがなくどちらかが死ぬしか終わらないのだということを痛烈に感じる。

最後、バーンとダイのパンチの打ち合いという場面で終わる。この終わり方も衝撃的だった。

ということで、友情と優しさの涙に満ちた97話と、暴力と悲しみの涙がにじむ98話というこの2つのエピソードがセットで改めてアニメとしてすさまじい傑作だと思った。
次回99話。えっほんとにもうあと2話で終わりなのか…。


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