ダイの大冒険(2020)第91話が放送された。タイトル「バーンの真実」。いわゆる老バーンと、ミストがあずかっていたバーンの肉体が1つにもどり真バーンが降臨しつつ、一方肉体を返したミストがマァム、続いてヒュンケルの肉体を乗っ取るところまでが描かれた。

まずEPタイトルの「バーンの真実」がおもしろいなと思った。これは原作の各話タイトルにはないものであった。いつも原作からとられることが多いのだが。もちろんこの真実は「真・大魔王」の真にかけているのだと思うし、一方で実の部分は、ミストバーンの”実体”みたいな意味もあるのかなと思った。なお、このタイトルをちらっとみたときに「まみ」という人名に読んでしまったのは私だけか。

冒頭、空中から光とともに落下するバーンに対してダイが「虫の息」と評するが、そんなに虫の息にも見えないなと思った(笑)。なんせ服がきれいすぎやしないか。光魔の杖でドルオーラをなんとかブロックして、それに魔力を使いすぎてしまったということなのだろうか。しかしだとすると、のちにミストから肉体を返してもらったあとに魔法力が全快なのはいったいどういうロジックなんだろうか。若バーン肉体のほうにも魔力は相当量チャージされていたということ?でもそうだとすると、分離している肉体の老人側に魔力があるという説明が整合しない。このあたりはよくわからない。
ビデオゲーム、RPGなどでも、レベルアップした瞬間になぜかHPやMPが全回復するゲームとそうでないゲームのタイトルがあるが、ドラクエは果たしてどっちだったか忘れてしまった。
バーンの場合レベルアップというか肉体取り戻したボーナスで回復するように事前からなにか仕込まれているのかな(笑)。

「一応この肉体がベースなので」という言い方で、ようやくここで情報をはじめて小出しにするバーン様。出してはいけない情報をべらべら出してしまうミストとは偉い違いである。やっぱこのあたりバーンは情報の戦略における重要性をわかっているようだ。

そして場面はアバンやミストたちのホワイトガーデンに移る。アバンの名推理の続きがはじまる。
アバンの説明のなかではじめて「肉体そのものか分身体」という表現が出てくる。さて実際にこれはどっちだったのか。あるいはどちらでもなかったのか。そもそも分身体ってのはどんな仕組みかわからないが、たしかにゲームなどでは実体を持つ分身体を作ることができるようなキャラクターはいる。あとはそれこそ、三条稲田両先生による「冒険王ビィト」にも、魔人ベルトーゼが分身体を作り出し、主人公たちのところに差し向けるシーンがある。その分身体は結構強い。バーンの場合は、むしろ老バーンのほうが分身体なのか?と思ってしまうが、そうなると直前の「この肉体がベースなので」という説明と整合しない。かように考えると、知性というか意識というかを残した肉体をベースに、そこから若さ成分?を抽出して、別肉体として再構成しなおしているのが若バーンの肉体ってことなんだろうか。このあたりは色々考えられる。

そして!いよいよミストバーン肉体のおでこに鎮座している黒いパーツの目が開き、ミストがしゃべりはじめた!
原作既読勢としては話の筋は全部知り尽くしているが、声がどうなるかは情報ゼロなので、それが今回の91話の一番の気になりポイントだったわけだが、声はやはり新しい声優さんが当てていた!そしてそれが、古川登志夫さん!
古川登志夫さんといえば、スーパー大御所である。ドラゴンボールのピッコロや、機動戦士ガンダムのカイなど、人気役をたくさん持つ。今回個人的には、ミストの声を聞き始めて一番最初に思ったのは「遊馬やん」であった(笑)。遊馬というのは、機動警察パトレイバーに出てくる主役の一人、篠原遊馬のことである。

肉体を分離した大魔王、そしてのちに融合する、という活躍をするキャラという意味でいえば、ドラゴンボールのピッコロ大魔王とあまりにも重なっていて、この配役をしたアニメ制作の方々には脱帽である。しかもドラゴンボールを作っているもの、ダイの大冒険をつくっているのも同じ東映アニメーションなので、完全に狙っているなぁと思った。
あと、私としては、機動戦士ガンダムのカイ・シデン役も非常に印象が強く、ちょうどCast a RadioのPodcastにゲスト出演いただいたPodcasterのカイさんともお名前もかぶっていて「カイさんここで出演…」と一人で受けていた。

ただ上述したように声をきいて第一感で思ったのはパトレイバーの篠原遊馬だったので「遊馬ってこんな上司に忠誠心なかったよな」などとどうでもいいことを思った(笑)。

そしてアニメでは、ようやく久しぶりに会話ができたバーンとミスト。しかし、この会話は見た感じ、マァムたちパーティメンバー、そしてたぶんダイとレオナも聴いているんじゃないかと見える。いつものふたりの脳内直接通信ではなく。こんな機密情報をオープンなスピーカーで大々的に放送・通信していいのかと思うわけだが、まあもう融合するからテンションが高くてそんなんどうでもよかったのかもしれない。

ミストがバーンの肉体を、バーンのところまで転移させた。この方法がどうなっているのかわからないが、まぁそれくらいはもう、バーンの魔力でなんでもありなのでこの際なんでもよし。そして老バーンと若肉体が並ぶシーンで、原作では白く輝いていた若肉体であるが(まるで最初にミナカトールしたときのレオナのように)今回アニメではあくまで日光、夕陽を受けて輝いているような描き方である。胸から腰の部分にかけては影になっていて、くわえて砂煙も不自然に舞っており、大事なところが見えないように描かれたようだ(笑)。

そしてバーンが解説をはじめるところでは、右と左から、真ん中で融合するようなアニメーション表現が使われていた。なんか、古いアナログテレビが調子が悪いときにこんな色が出ていたな…などと思い、でもそれは狙って作っているのだと思う。はるか昔におこなった凍れる時間の秘法を今解除するという時間の空きっぷりを感じさせるために。いやほんとか?

「何千年ぶりだか…」のセリフでは、土師さんの老バーンと子安さんのミストバーンの肉体の声がシンクロするように音が表現されつつ、しかし後者のほうが若干音量大きめで入れられている、フェードしていく感じがあり、ああ、この声が真バーンだろう、と感じられた。

そして、
真・大魔王バーン 降臨
ここは、原作でも見開きコマで、でっかいフォントで描かれていたシーンをアニメ流に取り入れ、久しぶりに漢字を全力で画面に出すという演出だった。これはめちゃくちゃ良かった。
今回のダイの大冒険のアニメは、原作で都度描かれていた文字を、アニメ本編の中では極力出さないようにしているなと思ってて、本当に、ここぞというときにだけ使う。それが、今回だった。
ただ原作と違うとすると、原作では降臨のあとに !!! とエクスクラメーションマークが3つはいっているのだが、今回アニメではそこはなかった。
ちょうどダイの大冒険展を見に行って、原作に描かれるたくさんのエクスクラメーションマークを堪能したあとだったので、なるほどここは違うんだなと思った。

真バーンになって最初にしたことが、真ミストバーン状態でよく放っていた掌圧発射であるわけだが、このシーン原作だと最初からダイに向かって右側の壁をぶち抜こうとしてた、つまり当てるそぶりもなかったというように見えるが、アニメだと一瞬ダイとレオナを狙うかのような構図が入っていたのが緊張感を高めてよかったなと思う。そのあとで「急に力が完璧に戻ると」という1クッション入って独り言をいうところがまたよい。

天下の大魔王バーンでも完全な肉体という強力な乗り物を手に入れる(戻す)と慣れるのに時間がかかるわけで、さて我々人間が現実世界で車を運転するときなどというのは、よくよく気をつけないと事故を起こす。などということを最近北海道にいって久しぶりに車を運転したのでちょうど思った(笑)。

ふたたびホワイトガーデンに舞台が戻るが、ラーハルトの「かなわんわけだ」というセリフのあとで、なんと、原作にあったクロコダインの「ミストバーンが自らを〜」という解説セリフが完全にカットされていた…!このセリフ、それまでのミストバーンの謎掛けにたいするアンサーとして、そしてクロコダインの洞察力の高さを示すセリフとして結構好きだったの…!もちろん今回のアニメ制作陣の強い作品愛を知っているので、表現、演出、時間など様々な理由でここをカットしたことは重々承知のうえで、しかしちょっと聞きたかったなここ。

一方で「声だけ?」というチウのセリフがあり、これはアニメオリジナルだった。このあとのシーンも含めて、ミストの正体のところに関しては結構チウの存在が重要だなと思った。

このあと、怒りに震えるマァムが後先考えずに殴りに行ってしまい、ミストに捕獲されてしまう。このシーン、ここだけ見ると、客観的に状況を見ていないマァムの感情的先行によって、パーティにピンチを招いてしまった、というように言えないこともない。しかし、YouTubeでダイ感想動画を上げているうららさんが90回の感想回で言うように、マァムは今のこのパーティのなかで、強さ自体よりも、感情を強く出す存在として描かれているというメタ的な役割があるのだと考えれば、この感情的先行もうなずける。

ただこれも、アバンがちゃんと、先に「ポップと老師は助けましたよ」と言うなりしたらよかったんじゃないかと思うが。
というか、このマァムを乗っ取ろうとしているとき、ポップと老師は何をしていたのだろうか。ちょっと離れたところで戦況を見ていた?だとするとカットインしてこないのも不思議なのだが…。

そして黒マァムになったところでチウが「身体ならばぼくのをやる」といってマァムの肉体に飛びつくところ。子供の頃は思わなかったけど、いま改めて、そしてはじめてアニメで見ると、このときのチウがかっこよすぎることに気づく。読者視聴者は知っているとおり、チウは当初、マァムのことが好きっぽい描かれ方をしている。だが、マァム自身はとんと気づいていないというかそもそも恋愛感情に疎いのがマァムのわけで、近くにいるチウのしかも異種族であるチウの感情のことは全然わかっていない。だがチウはその後、ポップやヒュンケルという、マァムと同じ人間の恋敵?が出現するも、そのことで腐ることなく、マァム含めてパーティメンバーとうまくコミュニケーションをとり、チームに貢献していく。そしてここで、マァムがミストに乗っ取られた瞬間の「身体ならぼくのをやる」という言葉とともに止めに行く姿。いやまってくれ、このチウ、ここまでのチウの中でも特にかっこいい。たしかに獣王遊撃隊がフェンブレンに殺されかけたときに守るシーンというのは、明らかにチウの成長を見せるために作者が用意した場面であるが、今回は多分そこまでの意図としてのシーンではない。だが見よ、このチウの、まさに自分の命を差し出しても愛するマァムを守りたいという思いと行動のすさまじさよ。
私はいままで、ダイの大冒険におけるいわゆる三角関係描写的なものを「エイミ – ヒュンケル – マァム – ポップ -メルル」の五角関係だと表現してきたが、ここで訂正したい。このチウの想いはすごい。今後はチウを加えて六角関係と表現していきます(誰に宣言してるんだ)。

黒マァムがしゃべるところ、最初、声優が「あれ小松未可子さんじゃない!?」と思ってしまった。それくらい、いつものマァムと声が違った。もちろん、声優はおなじく小松さんである。いつものマァムがちょっと子供っぽいというか、年齢どおりというか、少女的なところが強い声なのに対して、このミストがしゃべるマァムは、圧倒的に大人の女、悪い女であった。いやはや、声優さんのプロ技をここでも堪能した。

Bパートになり、マァムを倒そうとするラーハルトに対してクロコダインが「待て!」といって止め、そのあとで「人質作戦はおまえに似つかわしくない」とミストに話しかけるところ。このクロコダインの行為と言葉選びも、改めて見事すぎる。まずそもそも、黒マァムを倒そうと血気はやりがちなラーハルトを止めつつ、相手であるミストのプライドを尊重して、ちゃんと相手が納得しうる可能性を考慮した交渉を持ちかける。「おまえに似つかわしくない」といってマァムの身体から出るように促すのだ。この一瞬の緊迫した場面でこれが言えるクロコダインの緊急時の機転と知性の高さは改めて惚れ惚れする。
武人クロコダインは、もともとは力重視のキャラだったのに、ダイたちの仲間になり、闘い、そして自らの武力が通じなくなっていく中で、いっぽうで力を鍛えることのできないミストの気持ちというのを察して、そのプライドを重んじた交渉ができる人物に成長していった。いやあるいはもとがそうだったのかもしれないが、魔王軍のなかで馬鹿扱いされたり、単純業務ばかりをまかされて、対人的な感情を重視した交渉場面が少なくなることで、その能力が失われていたのかもしれない。だがここで見せたクロコダインの卓越した交渉は、まさにクロコダインのこの闘いの旅の最後に、力ではない輝きを改めて見せた場面として、私は永久に心に留めておくことを約束しよう。

黒マァムがラーハルト、ヒムを圧倒するところ。基本的に原作の描き方に忠実だが、黒いマァムの動きがとにかく速くて強くてかっこいい。

そしてアバンを踏んづけた黒マァムがどやって解説するところで、手から流血するシーン。原作ではここでヒュンケルが、「人間は誰しも無意識のうちに・・・」というなぜそこまで黒マァムが強いのかの解説を、内言的に読者にしてくれるところがあるが、このセリフもほぼカットされていた。さっきのクロコダインのセリフカットはちょっとショックだったが、意外とここのセリフカットは私は何も思わなかったのはなんでだろう(笑)。多分クロコダインが好きなんですよ単に。

ラーハルトとヒムが、改めて起き上がり、戦闘モード、というか黒マァムwithミストを殺そうとするところ。ここでもまたクロコダインはきっちり止めに入るが、ヒムもラーハルトも殺す気まんまんである。ここは原作でもそうであるが、改めて場面づくりが上手い。というのは、ダイたちのパーティのメンバーの人間たちは、基本的に心優しいほうにどんどんなっていき、それこそヒュンケルは「情けで敗れるなら誇らしい」というふうになっていた。それはクロコダインも同じである。しかし、ついさっきまで敵だったヒムやラーハルトはまだそこまでには至っていないという違いがある。なので、これまでのパーティメンバーだけだと殺さずになんとか解決したいという考えしかないところで、この2人が「殺す」という発想を持ち込むことで、読者視聴者はドキドキするわけである。「え、マァムを殺しちゃうの?」と。そこからの、すでに戦線離脱したヒュンケルが空の技をアバンに撃たせるという提案を持ち出させることで、マァムを殺さない解決の道筋が生まれる。この緩急が上手い。そして、アバンの内言での葛藤を踏まえてからの、ヒュンケルの「俺ならやる」というセリフによって、ちょっと葛藤していたアバンも技を放つ決心をする。
からの、ラーハルトから槍を預かるという流れがまたすごい。これまであまりこのシーンを着目していなかったが、今回アニメでこのアバンが槍を借りるシーンを見るとさまざまな意味がこのシーンに込められていたことに気づく。まずは、ラーハルトから武器を借りることで、マァムを殺して解決しようとするラーハルトを物理的にそれができないようにする、という狙いがある。加えて、そこで槍を貸すことを抵抗せず、すっと渡すラーハルトという存在。つまりこれは、ラーハルトにとって宿敵であり盟友ともいえるヒュンケルが提案した方法と、そしてアバンの持つ力をラーハルト「信じた」という描写になる。それまで戦闘マシンとして、とにかく殺して問題解決するなり主君に貢献するという考えしかなかったラーハルトが、本当に味方を信じるパーティの一員になったというのが、この瞬間だったように思うのだ。

さて槍をとったアバンが目をつむり、ミストの暗黒闘気の本質部分に集中しようとするところ。久々に登場する空の技の丁寧な描き方に、そういえばそういう技だった、と感じた視聴者は結構いたかもしれない。全体的に画面の色使いが暗くなり、特にアバンの内面的な集中が表現されているのがよい。

虚空閃があたり、ふっとばされたマァムを見て、ラーハルトが「元の姿だ」と即座に言うのがアニメオリジナルだった。なんだかんだいいつつ、この一瞬でマァムの身体からミストが抜け出たことを瞬時に見抜くラーハルト、やはり戦闘に関する洞察はこのひとは天才なのだ。

「命中寸前にマァムの身体から抜け出しました」というのが原作ではアバンの内言だったが、アニメでは仲間たちにきこえるようにふつうにセリフとなっていた。
そして、抜け出たミストを探す一行が描かれるが、背中側から彼らを描いており、一番手前側にヒュンケルの背中が少し離れたところで描かれていたのが、あきらかにヒュンケル狙われてまっせ、ということを視聴者に予見させるのがいいなぁと思った。これは次週放送されるが、結局ヒュンケルは自分にミストがやってくることを予期していたわけなので、距離をとっているのはヒュンケルがミストにしかけた罠だった、という前提で見ると、ここはヒュンケルの作戦勝ちの布石だったといえよう。

そしてアバン、2発めの虚空閃。原作だと地上に立って放っているように見えるが、アニメではジャンプして繰り出しているように見えた。そして緑の光が放たれるも、あさっての方向に弾かれる。弾かれた虚空閃の破壊力が結構あって、壁を壊していたので、たしかにこれがマァムにあたると結構ダメージありそうだ。
しかし、なんでここの虚空閃は弾かれてしまったんだろうか。いかに暗黒パワーが大きくても、悪を滅することができる空の技であれば、倒せてもよさそうなものだが・・・。悪を滅する技とはいえ、強すぎる暗黒闘気には勝てないのだろうか。

ヒュンケルの身体をのっとったミストが「見よ!」といってドヤるところで、一行が映るが、ここでアバンが「だれか、マァムたちを!」と叫び、クロコダインが「おお」と言ってマァムを助けるべく場から離れようとするシーンがあり、これもまたアニメオリジナルだった。これはなかなか面白いシーンだと思った。別にこれがなくても話の流れに影響はないように思うのだが、原作を見るとミスト消滅後に、クロコダインがマァムを抱きかかえている1コマが描かれている。つまり、原作だといつのまにかクロコダインがマァムを助けていたことになるが、それをいきなりアニメでそのシーンが出るとちょっと違和感があるから、今回の話数のところで先にそのきっかけを作っておいたと考えるべきなのかもしれない。

そしてミストがヒュンケルの意識のダイブの途中で今回エピソードが終わった。ということで次回でミストは消滅である。古川さんというビッグネーム声優を2話だけ、大事な役で出す、いやはや、制作のひとたちもすごいテンション高く作っていただろうなと想像されて、いいなぁと思う(笑)。


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