ダイの大冒険(2020)第80話が放送された。タイトル「チェックメイト」。マキシマムの兵を蹴散らすも、ヒムを人質に使う作戦によって窮地に追い込まれたヒュンケルを、復活したラーハルトが救い、マキシマムを撃破するまでが描かれた。
今回、冒頭でキングスキャンが行われるが、そのスキャンの画面が原作よりも、新しい感じになっていた。それこそ、声優が玄田哲章さんということもあり、映画「ターミネーター」シリーズに登場するシュワルツェネッガー演じるT-800が状況分析をする画面を彷彿とさせる。これは多分狙ってそうしているんだと思う(笑)。
マキシマムが集めるデータは、世界各地に派遣されたあくまのめだまからの情報だと言っていた。これもアニメオリジナルとなる。あくまのめだまが集めた情報はアナログなものかと思っていたのだが、何らかの方法でデジタルデータに変換されているらしい。いったいどういうデータベースなのか。
このあと、原作と違ったタイミングで差し込まれる、ミストバーンと、ダイ、ポップ、マァムが会話するシーンで、マキシマムの存在と彼の軍団についての解説が入る。主な解説役は、なんとまさかのマァム。まさかここでチェスのルールというか仕様というかを含めてマァムさんが解説してくれるとは!これもアニメオリジナルの演出だ。視聴者の年齢層などを考えると、あまりチェスのルールや仕様を知らないということを想定しているのかもしれない。あとはオリハルコン軍団とマキシマムについては、ミストバーンが丁寧な解説をしてくれている。「意思を持ったコマが不遜にも動き出した」と。
どうでもいいけど、「不遜」という言葉もあまり現実では使ったことがない。そんな熟語をさらっというミストバーンも、なかなかの語彙力の持ち主だ。まあ本作最強はクロコダインさんだと思うけど。
マキシマムがポーンたちに命じてヒュンケルにしかける攻撃。原作だと、1人1発くらいのパンチだと思っていたのだが、まさかのアニメでは、圧倒的タコ殴り!これでHP21の状態から、1にしかならないというのは信じられない(笑)。この最後のHP1というのは、どう考えても100くらいありそうだ。
原作からそうだが、このマキシマムのスキャンの表現というのは、データに踊らされてあるがままの実態が見えていない「道化」のマキシマムを描いているという理解でいいのだろうか?
しかしデータというか、定量的な戦闘力表現が大好きなキャラをぼくらは知っている。そう、ヒュンケルその人である。
ダイの披露したストラッシュXに関して「通常のストラッシュの5倍以上」という謎に正確な表現をするほか、復活したアバンに対して「戦闘力はダイに劣る」と言い放つ(戦闘力が半分に満たないと言ったのはアバン自身だが)。
実は、マキシマムと同じかそれ以上に、戦闘能力の定量的言語化が好きな男、それがヒュンケルである。
「戦闘に関して過去のデータは役に立たないが定量的表現は役に立つ」がヒュンケルの信条なのか。あるいは「いくらデータがあっても戦場の経験や判断力、メンタルといったOS、ソフトウェアの部分が整っていないと何の意味もない」というあたりなのか。このあたりは謎である。
さて、次々とオリハルコン駒を撃破するヒュンケルであるが、一番のオリジナル見せ場はやはり、城兵を一刀両断するときの「中身がない!」であろう。これは原作ではセリフがなかった。というより、無言で次々と撃破していく描かれ方をしており、それが印象的なところであった。爆発音などの擬音、オノマトペも入れず、無音の戦闘が続いていく。ダイの大冒険で無音の戦闘といえば、最後の最後、竜魔人ダイvs鬼眼王バーンの宇宙空間決戦だが、なんとここでヒュンケルさんもオリハルコン駒相手にやっていたのだった。が、今回アニメではさすがに無音、無声ということはなく、BGMもしっかり使って表現されていた。となってくると、最後のダイvsバーンの決戦ではどのようなに演出されるのかが気になってくる。
しかし今回、マキシマムの演技が本当に面白い。このキョドりぶりは、これまで出てきた敵キャラの中でも屈指であろう。アニメの表現として、顔のパーツがギャグ味たっぷりに動くことと、玄田哲章さんの怪演が合わさって、マキシマムの間抜けっぷりが際立っている。
原作を読んでいたときはあまり思わなかったが、こうやってアニメになってみると、実は終盤における貴重なギャグ回だったといえる。
ヒュンケルのパンチを顔に食らって吹っ飛ぶマキシマムのシーンも、なぜか光のエフェクトが差し込まれており、面白い感じになっていた。
しかし、本当に目がブルブル動くんだよねマキシマムさん。
Bパートはじまってすぐの「キングアクセス」。これはアニメオリジナルのワーディングだった。このときの映像表現がまた面白くて、横方向にデータ検索していくスクロールバーのスライダーが、なんとマキシマムの顔になっている!しかもなんか目が開かれた間抜け顔である。このあたりも徹底していて面白い。これは原作が描かれた当時(90年代半ば)と比べて、今が誰しもPCやスマホを使い、Webサイトを見たりすることが当たり前になっているからこそ、成立する時代的表現かと思う。
それでいうと、これ「データベースへのアクセス」という表現が、90年代なかばで少年雑誌連載のマンガで使われていた、というのはよく考えると凄い。当時コンピュータを持っていた子どもはどれだけいたのか。いや持っていたとして、データベースへのアクセスなる概念をわかっていた子はどれだけいたのか。そう考えると、このデジタル的な意味で非常に尖った表現が、マキシマムの特異性につながっているといえそうだ。2022年のいまだと、「データベースへのアクセス」って当たり前じゃんという感じなんだけど。この三条先生の先見の明というか、表現が大好きである。
ちなみに、Microsoftのデータベース用アプリケーションのAccessは1992年に初めて世に出たらしい。ひょっとして三条先生はAccessを使っていたりしたんだろうか?
さて卑怯作戦によって、ヒュンケルを踏みつけることに成功したマキシマム。このとき、原作にはない表現で、腕を組んだやたらドヤっているムーブが入る。これもまた面白い。
血反吐を吐くヒュンケルの映像も含めて、部分的に見ると結構残酷で恐ろしいシーンとも思えるわけだが、やはりこのマキシマムのギャグテイストが圧倒的なので、どうやってもこいつは倒されるだろうし、ヒュンケルもヒムもみんな助かるだろうなという安心感がすごい(笑)。戦闘含めて暴力性が高いのに、ギャグになってしまうマキシマムのすごさである。
からの、今回のある種の目玉、マキシマムの「吾輩のここはやはりすごい!すごすごすごーい!」である。ダイ好きTVの情報によると、ここは玄田哲章さんのアドリブだそうである(笑)。いやはや、それこそすごすごすごーい!
このマキシマムが演説するシーン、あと何が面白いかと言うと、これだけ全員から格下に見られ軽蔑されているマキシマムの言葉なのに、ヒュンケルとヒムには結構刺さっているということである。刺さっているというか、自分の感じた感情の言語化をしてもらっていて、それに納得しているというか。そこも含めて、マキシマムさんのユニークさといえる。
マキシマムが復活ラーハルトに対して弁舌たくみにしゃべるところだが、頭にヤリが刺さった状態で「わが偉大な頭脳」と言っているのが面白い。というか、あくまのめだまがあつめてきた情報はどういう形で蓄積されて、そこにどういう形でアクセスしているのだろうか。いまどきだと、クラウド上にデータがあって、クライアント端末からそこにアクセスしているのか、みたいに思ってしまうが、原作が描かれたのが90年代だと考えると、マキシマムさんはデータベースにたまったデータをせっせと吸い出して、フロッピーディスクかなにかで自分の頭に書き込んでいるのかもしれない。しかしそうだとすると、頭にヤリがおもくそ刺さっててちゃんと動作するんだろうか…。
ラーハルトがマキシマムの頭から槍を抜くシーン。これは後に分かる通り、すでにマキシマムを刻んでいるわけだが、このときのヒュンケルとヒムの演技は、ある意味で読者/視聴者をも騙しているわけである。つまり彼らは切り刻んだ様が見えたが、読者/視聴者はわからない。改めて、こういうところの描き方のちょっとした上手さに感服する。
ところでハーケンディストールでバーンパレスの地面が相当ぶったぎられているわけだが、これができるのであれば、ダイヤ9にポップたちが巻き込まれたときに、物理攻撃技で地面をぶっ壊してトラップを破壊することもできたんじゃないの…?とかちょっと思ってしまうが。ダイヤ9の炎自体が物理や闘気技をブロックする仕様だから、それは無理ってことなんだろうか?
最後、マキシマムはおまけに一発、キングアクセスをして「心理的トラップ」と断言するわけだが。これ、さっきも書いたけど、全身刻まれているのにちゃんとコンピュータ(勘ピュータ?)は作動するのね。
いやそれとも、もう刻まれたコンピュータは壊れていて、最後に作動したように見えたアクセスは、ただの彼の夢か妄想だったのかもしれない。
「シュワ」と言って飛び立つマキシマムが空中爆破。これはある意味でウルトラマンの飛翔のオマージュともいえるし、それこそ玄田哲章さんだと考えると「シュワルツェネッガー」にも引っ掛けたギャグなのか?と思ったりするが、それは考えすぎか(笑)。
【Podcast】 Cast a Radio 「ダイの大冒険」を語る