ダイの大冒険(2020)第70話「勝利か消滅か」が放送された。ポップvsシグマ戦の決着がつき、ポップがマァムに想いをちゃんと伝えるまでが描かれた。

冒頭のポップとシグマの会話。ここはお互いに相手への敬意を示すシーンでありつつ、実はここでポップが後の勝利に至るための布石を打っていることに気づく。それがシグマの「使って見たまえよ、あのメドローアとかいう呪文を」に対する「冗談じゃねぇ、メドローアを弾き返されたらそれこそ一巻の終わりだ」という返しである。メドローアを跳ね返す、ということに対するシグマの意識付けをおこなっているわけだ。

そして、ブラックロッドを活用してからのシグマの手首を壁に固定するところまでのシーン。ここで、シグマが落ち着き払っているところで、ポップは違和感を覚えるわけだが、この時点で、むしろこのシグマの様子を見て、このまますんなり勝てないということがおそらく予想がついたのではないだろうか。その後、手首をカポッと外して迫りくるシグマに対してメドローアを打とうとするが、ここでシグマに制されて、胸にライトニングバスターの直撃を受けてしまう。だが、これも多少は予期していたのではないだろうか。シグマに対して速度戦で勝てないことはポップは重々承知していたはずで、慌ててメドローアを打って勝てる相手ではないということは分かっていただろう。もちろんライトニングバスターという技の性質までを把握していたとは思えないが、とはいえ相手の必殺技の直撃を受けることは予想していたかと思う。
だがそうなると、ちょっと妙である。ポップの肉体強度は、ダイやヒュンケルとは比較にならないし、マァムのようにロン・ベルクの防御系装備があるわけでもない。まともに敵の必殺を食らったら死亡する危険があることは、彼自身が一番わかっていたはずだ。そんな状態で敵の必殺技を受けるだろうか?
ここで、敵の必殺技を受けることができる条件が2つ想像される。1つは、その技の威力が「即死級ではない」ことだ。たとえばバランのギガブレイクのような技であればポップはまともに受けたら即死してしまう。でも、シグマの技はそこまでの威力はない、とそういう予測を立てていたのではないか。そしてもう1つの条件というのは「予め回復準備をしておくこと」である。少なくとも回復呪文を覚えたてのポップにとっては、敵の必殺を食らってから瀕死になってから回復呪文を使うのは(いや覚えたてのキャラじゃなくても)困難であろう。ということは、おそらくライトニングバスターの直撃を受ける直前くらいで、ベホマとまでは言わなくても、なんらかの回復呪文を予備的に発動させていた可能性はあるのではないだろうか?それにより、まずライトニングバスター直撃での瀕死状態を避けて、そのうえでのベホマをかけるという2段階の手順をとった。このように考えてみると、ポップが「無防備に敵の必殺を受けたように見える」シーンもなんとなく説明がつく気がするのだ。
結果的に、それによってポップは2つの収穫があった。1つはシグマの必殺技に関する正確な情報である。これでもう、ポップはやすやすとライトニングバスターを食らう可能性が下がったし、またシグマからしても必殺技を知られてしまった以上、次に繰り出しにくくなる。そしてもうひとつは、自分の回復呪文の発動速度や効果に関する理解である。敵の攻撃を食らう中という危険な状況で使うことができれば、そのあと実戦で使っていくうえで、すなわちバーンやバーンの配下のほかの敵と戦うときに役立つ。この2つを学ぼうとしたのがここの無防備に見えるポップの動きだったのではないかと思うのだ。

アニメの描かれ方として、ライトニングバスターの表現が面白かった。食らった直後に何かがおきるというより、食らった瞬間は何も起きず、数瞬置いてから、背中側に光が走る。まるで北斗の拳の秘孔を突かれた敵のような感じであった。まあポップは敵じゃなくてド主人公ではあるが。
しかしかんがえてみると「親衛騎団クラス」の必殺技をまともに食らってしまうのは、もう今のレベルのダイやヒュンケルでは難しいのかもしれない。と思うと、ある意味でここでシグマの必殺を食らっておくのはポップの役割と言えるのかもしれない。
あるいは、メルルが身を挺して守ってくれたことの「痛み」に対する贖罪というか、自分にも痛みを与える必要があるとポップが思っていた可能性も十分に考えられる。そういう意味ではライトニングバスターをモロに受けることは「メルルの痛み」を自分に分けるためのステップだったのかもしれない。

さて、ポップが回復呪文で立ち上がったあとにシグマと交わす「魂」についての会話。この会話、興味深いのは、「それは君の魂の力が呼び起こした」と当然のようにシグマが語るところである。魂の力というのはアバンの使徒はじめ人間たちの信念の力であり、それの関連するものが後に出てくる「絆の力」であろうと思われる。そしてこれはのちに大魔王バーンは完全否定する。絆では勝てない、と。
だがこのときのシグマはアバンの使徒からは敵でありながら、「魂の力」をもっとも正確に言語化している。なぜここまでシグマは本質がわかっていたし、それをさらっと言語化できたのであろうか。

ハドラー親衛騎団には、作ったハドラーの内面が反映されている。ヒムにはおそらくハドラーの闘志や正々堂々の勝負を求める気持ちが反映されており、だからこそヒュンケルに呼応したのだろう。フェンブレンは、ハドラー曰く「功名心」だということになっている(果たしてそうなのか、というのは過去のダイログで書いたのでここでは省く)。では他のメンバーは何が反映されているのか?ブロックは、仲間の身を守るために自己犠牲を厭わない献身的姿勢だろうか。アルビナスは愛だろうか。仮にそうだとして、これは後のハドラーの行動と一致する。すなわち、キルバーンの罠からダイとポップを守ろうと自己犠牲を発揮するし、そして死の間際にアバンに対する想いを成就したという意味で。
だが、シグマはいったいなんなんだろうか。騎士シグマだから騎士道なのか?というと多分そういうそのままなものではないだろうと思う。

これは完全に私の妄想でしかないが、シグマに反映されたハドラーの内面というのは、彼の「気高さ」ではないだろうか。気高さというのは、高い自己効能感と自信、そして相手に対する敬意が揃ってはじめて成立するように思う。シグマの立ち振舞を見ていると、自らの戦闘能力と思考判断に関する揺るぎない自信が見て取れるが、一方で上述したようにポップに対する素直な賞賛と敬意にあふれている。言葉遣い含めて、親衛騎団メンバーの中で圧倒的な「気高さ」をシグマには感じるのだ。だが、ハドラー自身はそういう言動が多いキャラクターというわけでもない。ただそれは、それを発揮する場面が多くなかったということかもしれない。ハドラーの中にある気高さが強く顕れた存在、それがシグマだと思うと、それなりに納得感がある。

さて、このあとにポップとシグマの勝負を決する最後の闘いとなるが、ポップがこれまでさんざんメドローアを意識させた結果、囮として放ったベギラマがキーになる。ただこれ、アニメでの描写を見ると、呪文を作る段階では炎と氷を出しているところから明らかにメドローアの前準備である。ではどのタイミングでベギラマを生み出したのか?まさにここをシグマに感じ取らせなかったのが、このポップの「マジック」の最大の種と言えるだろう。大魔道士ポップ、個人的にはここは「大奇術師」という印象が強い(笑)。アニメで観ても、この切替のタイミングはわからなかった。
のちに大魔王バーンは、爆裂系呪文とブラックロッドの二刀流攻撃に対して「器用だな」と語るが、この場面でのメドローアを出すように見せてベギラマを出す(そして見た目すらもメドローアに見せる)というのが最高にポップの器用さを発揮しているシーンじゃないかと思ったりする。

そのベギラマがシャハルの鏡に当たって跳ね返るシーン。即座に跳ね返らずに、少し間があってからの反射となった。これは以前バーンがマホカンタをしたときに、一瞬魔法を吸い込んでから打ち返すような描写があったが、それに近い動きなのだろうか。か、あるいはこれは登場人物たちの心象風景としての、感覚時間としての描写だったと捉える事もできるように思う。

そしてシグマに命中するメドローア。メドローアの飛んでいった先にバーンパレスの中核部分的なところがあって、ただとはいえそこから少しずれているような描写だった。あのまままっすぐ飛んでいたらバーンパレスの建物の重要部分を削っていたりしたんだろうか。

メドローアに関しては、地上のシーンがアニメオリジナルとして追加されて、クロコダインが「あれがメドローア」と語るところがある。クロコダイン、モンスター軍団を撃退するのに忙しいのではないかと思うのだが、はるか遠くのバーンパレスでのメドローアの光が見えたと言うと、相当バトルには余裕があったのではないかと推測される。さすが獣王。

そして今回のエピソードの超重要シーンである、ポップの「真・告白」であるが。なんかシグマとの闘いがエピソード前半できれいに終わってしまったので、完全に後半への引き立て役になった気がしないでもない(笑)。
基本的には原作のセリフ回しにある程度忠実ではあるが、ポップが「男なら…」という部分はカットされており、このあたりは今回のアニメ版の統一された言葉選びを感じる。

マァムが青い空を見るシーン。ここはアニメならではの抜けるようなきれいな表現があってよかった。
そのあと、マァムとポップが語り合うのだが、敵の城、しかもはるか天空というとんでもない場所でデートをしている(?)と解釈するとある意味もうバーンも勝てないスーパー技である。吊り橋効果という話があるが、ある意味これはもう究極の吊り橋効果があるかもしれない。

マァムの語りのなかでヒュンケルが走っているシーン。ここで思わず笑ってしまったのは私だけだろうか?いや別におかしなシーンというわけではないんだが。ふとそこだけ切り出して見るとちょっと笑ってしまった。

ポップがキス風のいたずらをしたあとのマァムの顔が原作同様にすごく面白い顔だった。このあたりの漫画テイストを生かした表現もまた、いいなぁと思う。


【Podcast】 Cast a Radio 「ダイの大冒険」を語る