ダイの大冒険(2020)第5話が放送された。
デルムリン島でのアバン対ハドラーの勝負が決着し、ドラゴンの紋章の力を発揮したダイがハドラーを撃退するまでが描かれた。

このnoteでは、おもに原作、91年版アニメとの違いなどを含めて語っていく。

今回のエピソードで印象的だったのは、「ハドラーの鼻水」描写がしっかり存在していたことである。これは結構意外であった。
原作ファンはよく知っているとおり、ダイの大冒険ではキャラが鼻水を垂らすシーンがよく描かれる。というか、なんなら史上もっとも鼻水シーンの多い冒険漫画ではなかろうか。
鼻水にはいくつかの分類があり、単純に寒さを描くこともあれば、自然に鼻水を出しているキャラもいる(マトリフなど)。しかしなんといっても多いのは、ビビっているシーンや驚きを受けたシーンで、その心理をわかりやすく見せるために使われている。鼻水を出すキャラとしては、ポップやザボエラが多い。

しかし、決してそんな何度も鼻水を出しているわけではないのだが、象徴的に鼻水を出しているキャラがいる。それがハドラーだ。
特に、アバンのメガンテを受けるシーンでは、大ゴマのアップで鼻水を出しており、魔軍司令の威厳は1mmもない。初期ハドラーの小物感や、隙だらけぶりの象徴シーンの1つである。

91年版アニメでは、アバンのメガンテのシーンで、ハドラーは鼻水を出していない。これは、漫画的表現を、アニメ表現に変換するプロセスのなかで、決定された描写だと思っていたので、特に違和感はなかった。
ところが、2020年版では、この鼻水がしっかり描かれるのだ。カバーの比較画像参照いただきたい。

これまで、2020年版アニメでは、比較的シリアスというか、現代のアニメーション表現のトンマナを重視して作ってきた印象があった。特に、今回のダイの大冒険は90年代ジャンプ漫画アニメであったような「引き延ばし」が不要で、むしろ短縮に注力していると思われる中では、ギャグ要素は相当に削っているという理解であった。
ところが今回ハドラーの鼻水が「復活」したことで、これはどういう演出上の意図があるのかと考えている。

ひとつ思ったのは、鼻水を描くことは、尺を使わずに描写のインパクトのみで「おどろき」「びびり」の心理描写ができるので、時間対効果が大きい表現なのかな、ということだ。であれば、2020年版アニメに要求されている仕様に合致する。

あとは今回第5話を見ていて、91年版に比べて明らかにアニメーションが進歩していることをよく感じるシーンがあった。それは、アストロンをかけられたキャラたちのビジュアルである。91年版では、洞窟の中という描写も相まって、アストロン状態のダイやブラスたちはもはや暗闇に浮かぶ目玉といった状況だ(笑)。それに比べて、2020年版ではまず設定が屋外であり、さらにアストロン状態の色も銀灰色がかっており、顔や表情の描写もとても見やすくなっている。これはさすがの進歩である。

そのほかでいうと、これは91年版についての発見なのだが、ハドラーがアバンに打撃攻撃をしかけるシーンが実に自由な演出がされていた。
原作では、「格闘技だけでも充分に貴様をバラバラにできるパワーがある!」という一言で打撃を仕掛ける。
2020年版でも、それをベースに「馬鹿め、今の俺には、格闘技だけでも充分に貴様をバラバラにできるパワーがある!」とだけ語り、打撃のみでアバンを追い詰めていく。
ところが、91年版はものすごいことになっている。
「格闘技はキック、パンチの打撃技、投げ技、関節を極める、この3つから成る。そのすべてにおいて俺は貴様をしのいでいる。俺には、格闘技だけでも充分に貴様をバラバラにできるパワーがあるのだ!」
と、なぜか格闘技の技の分類をご丁寧に語り、そのすべてをアバンに仕掛けていく。いつからハドラーは格闘技マスターになったのか(笑)。
基本的に、原作に追いつかないように「引き延ばし」を組み込んでいくことが求められていたであろう91年版の制作プロセスを考えると、原作にない会話が追加されていくのはよくあることなのだが、ハドラー先生の格闘技教室はさすがに笑ってしまった。

前回のnoteで、「2020年版ではベギラマが熱球パンチになっていて斬新な演出だった」という趣旨のことを書いたが、その後収録のPodcastのなかで、おだじんさんにより「実は原作も熱球パンチでしたよ、わかりにくいけど」という指摘を受け、驚愕して原作を読み直したところ、たしかに熱球パンチであることを確認した。
かように考えてみると、実は91年版よりも2020年版のほうが本質的に原作を生かしたアニメーションなのではないかという気持ちがだんだん強くなってきた。

あと91年版が驚くべき点がもう一個あって、それはアニメの各話タイトルの中で、完全にネタバレをしてしまうことである(笑)。91年版第8話のタイトルは、なんと「アバン自己犠牲呪文に散る!?撃て・最高技!!」である。完全にメガンテをネタバレしている。
2020年版の各話タイトルは、実に質素というか、文ではなくて、名詞だけとか、「△△の××」とかになっていることが多い。これはタイトルでネタバレのないようにという配慮なのかもしれない。
もちろん原作ファンはみんなストーリーを知っているが、そのネタバレ配慮の対象は我々ではなくて、小学生などの所見の視聴者であろう。それはまったくもって正しい。

というわけで、次はマァム、クロコダインとのファーストコンタクトがどう描かれるか。楽しみだ。