ダイの大冒険(2020)第58話が放送された。光魔の杖を持ち出したバーンと戦うも剣を折られるが、ハドラーが救援にかけつけ、そしてザボエラの魔法にて動きを封じられてしまったハドラーをブロックが命を犠牲にして救うところが描かれた。そしてダイは聖母竜に連れて行かれてしまった。

さて、冒頭のベホマでバーンが回復するシーン。ここに関しては前々から思っていた疑問がある。それは「ドラゴニックオーラで与えたダメージはすぐには回復呪文で回復できないのではないのか?」ということだ。後に真バーンに対して天地魔闘の構えを破り、ストラッシュXをバーンの左腕に当てて切断するときに、「ドラゴニックオーラで与えたダメージは暗黒闘気のダメージ同様にすぐは回復できない」ということが、その場にいる全員の合意として生じていることがわかる。であるならば、さかのぼって、今回のダイのストラッシュ(これはアロータイプであろう)も、竜闘気がこめられたものであるなら、かんたんにバーンがベホマで回復してしまっては矛盾するのではないだろうか。
これに対するひとつの解釈として、のちのダイのストラッシュXは、双竜紋かつストラッシュXであるためにダメージが大幅に上昇していて、よりダメージが深かったため、ということであろうか。しかし、そのXが直撃したのは左腕だけであり、身体の急所とはいえない。それに比べるなら、アロータイプとはいえ、身体全体に受けるほうがダメージは大きいのでは(しかもバーンは老バーン状態であり肉体強度は高くない)という疑問が生じる。いずれにしても、ベホマですぐ回復できちゃうのは若干よくわからないのである。

それはさておいて、ついに登場した光魔の杖が、なかなかに禍々しい。同じロン・ベルクの作った武器なのに、なんか鎧の魔剣などとは毛色が違う気がするのはなんなのだろうか。真の武器は持ち主を選ぶという話はかつてクロコダインが言ったセリフだと思うが、バーンに使われているうちに光魔の杖もだんだん禍々しくなってしまったのか?

今回、ロン・ベルクの口から理力の杖の説明が語られる。これはドラゴンクエストのゲームシリーズをプレイしていないと、なかなかここだけ聞いても分かりにくい話ではある。ゲームでも、理力の杖はさして強力な武器ではなく、あまりプレイヤーの脳内にも残っていないだろう。しかし逆をいうと、そのさして印象にも残らない武器を、大魔王の最強武器として活躍させたダイの大冒険という作品の設定というか描写というかが改めて見事ではある。

光魔の杖とダイの剣が激突し、ダイの剣が折られるシーン。原作漫画を読んだときよりも、このアニメのときのほうがより、ショッキングな折られ方をしているように感じた。力比べの状態から力負けして折られたという感じだ。そのあと、飛んだ剣がきれいに地面に刺さって立つのはなぜなのかとは思うが(笑)。
しかし、今回のちに戦うハドラーの覇者の剣や、のちに双竜紋に目覚めたダイが振るうダイの剣が折られなかったのはなぜだろうか。ハドラーに関しては、バーンが光魔の杖に魔力を取られすぎたせいで威力が落ちたからという解釈が作中でも共有されているが、ダイの再戦のときには別にバーンの魔法力はフルだったはずなので、威力が落ちているわけではない。ということはダイが剣に込めているオーラの量が増えており、それが結果的に剣の強度を高めているという解釈が妥当だろうか。

さて、バーンによって放たれた必殺のカラミティウォール。今回思ったのは、あ、これオレンジ色の光を放つ技だったのか、ということである。暗黒闘気がこもっているならてっきり黒か紫か、と思っていたのだが、よく考えたらバーンの魔力を光魔の杖が戦闘力に変換しているのであれば、別に暗黒闘気は関係ないわけだ。のちに双竜紋に目覚めたダイの脳内AIこと闘いの遺伝子が「きわめて闘気に近い」とその技の性質を見抜くが、であるならば、光でも闇でもなく、プレーンな闘気の噴出というのがカラミティウォールの解釈としては妥当なのかもしれない。となるとこのオレンジは、果たして実際にオレンジというよりも、もしかしたらダイたちの心象風景としての、脅威の色としてのオレンジなのかもしれない。

そしてそのカラミティウォールを、ハドラーが食い止めるシーン。今回アニメを見て思うのは、これは食い止めるというか、ハドラーが地面にパンチしてそこから伝わらせたエネルギーによって、バーンパレスの地面そのものをぶち壊すことによって、結果的にカラミティウォールのエネルギー波が走る場所をなくして分散させてしまった、というような対処法に見えた。これもまたある意味では、地の利というか、戦闘する場所の特性を理解した上で、うまくカラミティウォールを無力化することに成功している、かなりバトルIQの高い対処法ではないだろうか。
超魔生物と化したハドラーは、よく「武人」という肩書で語られるが、たしかに武人という肩書からは正々堂々の勝負を重んじるという印象を持つ。それは間違っていないのだが、一方で卓越した武人というのは、戦闘IQの高さも併せ持っているものと思われる。それこそ、ザムザ戦におけるブロキーナなどは、バトルの状況を見抜く力が恐ろしく高く、マァムやポップに的確な助言をするだけで自分は武力を振るわずとも状況を収めることに成功している。
今回ハドラーがやってのけたことは、決して自らがカラミティウォールに飛び込まずとも、遠隔攻撃(しかも別にそんなにパワーを使ったわけでもないやり方)でバーンの必殺技を無力化したという意味で、考え方によってはブロキーナなどにも通じる戦闘IQの高さを見せたとはいえないだろうか。

さて、そしてハドラーがバーンパレスの床を砕くことで、マァムとポップは海に落下していくことになるのだが。ここで思い出してほしいのは、バーンは魔力によってバーンパレスを包んだんじゃなかったのか、という話である(笑)。ここでマァムとポップが落下できたということは、魔力によるカバーのようなものがなくなっていたということなんだろうか。それは光魔の杖によってバーンの魔力が低下したことと関係があるのか?このあたりは語られていないのでなんともわからない。

さて、ハドラー親衛騎団たちが瓦礫の山から抜け出すシーン。いくらなんでも時間かかりすぎじゃないかというのはさておいて、ここでは原作にあった親衛騎団たちのやりとりが大幅にカットされていた。このシーンで、原作では誰がこの爆発から救ったのかということで、ヒムが「まさかこのニブそーなのがね」とブロックのほうをちらっと見ていた。だが、たしかにこのシーンはそれより以前のシーンとちょっと矛盾していて、なぜならポップの初回のメドローアから最速で身を挺して親衛騎団メンバーを守ったのがブロックだというのは誰もが知っているからだ。そういう意味では、今回アニメでは、テンポも含めて、ここの親衛騎団のやりとりをまるごとほぼカットしてしまったのは妥当かなとは思う。

さて先程ハドラーの戦闘IQの高さという話をしたが、このあとのハドラーとバーンの一騎打ちでもそれは顕著である。光魔の杖の性質を誰よりも早く見抜き、光魔の杖の威力の低下を正しく予想したことによって、勝算を立てることができた。それがなくては、光魔の杖の斬撃を真剣白刃取りするのは無茶だったろう。

そしてカイザーフェニックスの握りつぶし。原作ではわりとあっさりと握りつぶしていたが、アニメではもうちょっとしっかり受け止めていた。ただ、この場面におけるバーンの顔の汗の出方、焦り方がすごい。原作読者であれば誰もが知るとおり、この時点の老バーンは、ミストバーンから肉体を戻していない時点で、不完全なバーンである。言い換えるなら、真バーン状態になればハドラー含めて全員をかんたんに倒せる以上、焦る必要がないといえる。しかし、その肉体を預かっているミストバーンが親衛騎団によって釘付けになっている以上、この場面は老バーン自らの力で凌がなくてはいけない。そういう意味では、実はのちのダイたちとのバトルのときよりも、このときのバーンは焦っているという描写は正しい。
このあと、久々に登場するザボエラの謎の魔法の縛りによってハドラーは動けなくなるが、この妨害がなかったら果たして戦局はどうなっていたのであろうか。あのままハドラーが超魔爆炎覇をバーンに叩き込んでいたら、なんなら老バーンを倒せてしまったのか?それともルーラか何かでバーンは手段を選ばず逃げたのであろうか?このあたりは妄想するしかないところだが。

そしてそのザボエラであるが、この縛りに関して「ワシも動けないが貴様も動けない」というご丁寧な説明をしている。これは原作にはなかった。なぜこのセリフが入ったのかはよくわからないが…これがなかったらいくらなんでもザボエラが強すぎということなんだろうか?

ブロックが身を挺したのち、謎のボールに包まれて戦闘現場からハドラーたちが飛んでいくシーン。原作では「やっと覚えてはじめてしゃべった言葉がそれかよ」とあったが、アニメでは「覚えて」のところはカットされていた。まあたしかに、最初から覚えていた可能性もあるよな、いやでもたしかにブロームばっかり喋ってたような、でもそれはあの重装備のルーク形態だからしゃべれなかっただけなのか?とか。いずれにしても、まあそのあたりは謎なので、今回アニメでヒムが言うくらいのことで十分なのかもしれない。

そしてハドラー&親衛騎団、マァム&ポップ、聖母竜、加えて戦場から離脱した連中がもう1組。それが、鎧の魔槍とダイの剣である(笑)。特にダイの剣に関しては折られたはずなのに、一応なんとかくっついた状態で飛んで帰ってきた。そして、飛んで帰ったあと、砂埃を巻き上げるほどの威力でロン・ベルクのいるところの地面にぶっ刺さる。なんと恐るべき仕様か。ロン・ベルクの武器、すごすぎません?
かつて、ヒュンケルはどうやって死の大地に遅ればせながら、高速で行くことができたのか、という謎があったが、ひょっとするとこれ、鎧の魔槍のこの飛翔能力で、それにぶら下がって、あるいはまたがって、死の大地に向かったんじゃないのかヒュンケルは。そう考えれば、辻褄が合う。
いうなれば、魔槍の宅急便である。


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