ダイの大冒険(2020)の第36話が放送された。ザムザの超魔生物への変身、ダイが一度倒れ、残されたポップとチウが奮戦。そしてマァムが閃華裂光拳で生体牢獄を破り、ザムザに閃華裂光拳を一発決めるまでが描かれた。

今回見ていて思うのは、アニメ化によって実は大きく印象が変わったのがこのザムザとの戦いなのではないか、ということである。
たとえばダイvsバランの死闘は、たしかにアニメとして迫力はあったが、元の漫画で十分に印象に残る中心的なバトルであったため、アニメ化によって感じるのは「漫画の豪華版としてのアニメ」という印象が大きかった。
しかし、このvsザムザ戦は、戦いの半分くらいは主人公ダイが不在ということもあるし、また魔王軍主力キャラも一切不在で、ある意味独立した存在であるザムザが敵だということもあって、漫画を読んでいたときには、相対的にはあまり印象の強いほうのバトルではなかった。
ただ今回アニメ化されたこの武術大会のザムザ戦を見ていると、驚きや面白みが随所にある。むしろその物語の本流ではないバトルだからこそ、自由にアニメ制作陣が作りやすかったということもあるのかもしれない。

たとえば、超魔生物ザムザは、魔族ザムザよりもだいぶ巨大化する。このデカさが、アニメだと十分に生かされている。じつはこれまで、ダイ一行が戦ってきた相手には、そこまでサイズ違いにデカい敵は多くなかったということが挙げられる。明らかにサイズのデカイ敵として描かれたのは、悪の賢者バロンが乗ったキラーマシンと、鎧武装化したフレイザードの2人くらいだろう。しかし、正直なところ、その2人はあまり強くなかった。バロン自体が悪知恵を働かせるタイプのキャラだったし、鎧武装フレイザードは確かに戦闘力は低くなかったが、完成したダイのアバンストラッシュの前に一撃で敗れ去る噛ませ犬ポジションだったことは否めない。すなわち、「相手を引き立てるためにデカイ」存在だった。これは武術大会で、マァムがノックアウトしたデカすぎる戦士と同じようなものである。

ところが、超魔生物ザムザは強い。ダイがドラゴニックオーラを使ってぶん殴っても効かないし、一度は完全にダイを追い詰める。ようやく、デカイけれども噛ませ犬ではない敵キャラ(ドラクエ的にいうと章ごとに出てくるボス)として描かれる。

あとはザムザの場合は、肉体的な強さもさることながら、智謀智略を働かせている、まさに「悪魔的な」頭脳を持ったキャラであることも重要だ。ロモス王を使って、超魔生物実験のモルモットとして人間を集める。そして、たまたま出会ったダイを見るや否や、竜の騎士の強さを確かめる好機という判断で戦闘を仕掛ける。これまでの敵たちが、ダイの命を狙って襲ってきたのとは好対照と言える。

アニメ化されると、その肉体的強さや巨大さ、そして悪魔的な言動が漫画のときよりもずっと印象的になっている。ここまでアニメ化されてきた中で、実はもっともアニメのおかげで印象が増した存在かもしれない。

というところで実はもうひとり、そんな意味でアニメ化で印象が変わったキャラがいる。それが今エピソードのもうひとりの主役、チウである。
アニメでのチウは、振る舞いもあるいは繰り出す技も、原作以上にデフォルメされたギャグっぽさを放っている。戦いの真っ最中なのに、技名(窮鼠包包拳)を考えて油断しているところでチャンスを逃すというあたり、漫画よりだいぶギャグ感が強かった。シリアスなバトルのはずなのに、チウがいるとどうにもギャグになってしまう。
だが、これはむしろ作品としては魅力といえる。単調でシリアスなバトルばかりになってしまうと、作品の読み手/視聴者は、だんだん疲れていってしまうし、ワンパターンさに飽きてしまう恐れがある。
ダイの大冒険はアクションバトルが主軸に据えられた作品である以上、どうやってもバトルシーンは多い。それが求められているからこそだが、そうはいってもワンパターンになっては飽きられてしまう。そこで求められる変化球のひとつが、戦いのテンポの変化だといえよう。チウが加わり、ギャグな要素がバトルに入ることで、視聴者はこれまでの戦いとの変化を感じ取れるのだ。

特に今回、チウが登場したり技を振るう場面で流れる音楽も、ギャグテイストがかなり強かった。音楽、音響面でも、上述の効果を高めてるように思う。

しかしそのギャグ分を割り引くとしても、チウの打たれ強さとタフネスが尋常ではないとは思う。どれだけザムザにぶっ飛ばされてもピンピンして向かっていくし、むしろザムザのほうが疲れている。傷をつけられてもただちに傷が治ってしまう超魔生物だが、動きによる体力の消耗は回復しないのか?そのへんは謎だ。

謎といえば、なんでそもそもザムザは超魔生物化して巨大化するのだろうか。後に出てくる超魔ハドラーのサイズ感は、魔族のときより一回り大きいかな?というくらいで済んでいる。まあ演出面での理由としては、ハドラーが巨大化しちゃうとダイとのバトルが白熱しないから、ということになるんだろうけど。設定上としては、超魔生物は巨大化するのがデフォなのか、しないでもいいのか。あるいは、超魔生物から魔族に戻る機能をなくして超魔生物化するのなら、魔法が使えると同時に、サイズも巨大化しないでオッケーみたいな条件でもあるんだろうか。

さて次回はマァム先輩の閃華裂光拳の炸裂ラッシュ!マァムが本当に容赦なく本気を出したのは実はこのザムザ戦だけではなかろうかと思っているので、次回お楽しみに。