91年版と2020年版のちがい
ダイの大冒険のアニメ化は二度目である。一度目は1991年に制作され、バランとの対決までを描いて打ち切りになった(以下91年版と称する)。46話が最後だった。原作(ジャンプコミックス)だと、12巻にあたる(なお、ジャンプコミックスで全37巻)。
したがって、その話の展開ペースでアニメ化すると、完結までに約3年かかる計算になる。
おそらく制作、放映などのなんらかの事業的な理由によって、今回のアニメ(以下2020年版)には3年(アニメ業界の言葉を借りるなら12クール)の時間は与えられなかったようである。
10/3(土)9:30に放送された2020年版の第1話では脚本に、衝撃の短縮が埋め込まれていた。
ニセ勇者でろりん一行がデルムリン島に来て、ダイの友達ゴメちゃんをロモス王に献上すべくさらっていくところまでは一緒だったものの、なんとロモス王が、自らの居城ではなく、デルムリン島に来ていた船に乗ってきていたのである。
これは原作読者にとってはかなり驚きだ。というのは、さらわれたゴメちゃんを救うために、鬼面道士ブラスから魔法の筒を預かってロモス城に乗り込むという展開が完全カットされたからである。
2020年版では、船上でニセ勇者でろりんをダイは魔法の筒に入っていたモンスターの力を借りて制圧する。そして、ロモス王はでろりんが勇者だと思っていた自らの眼力の無さを恥じ、ダイに覇者の冠を渡して、一件落着となる。
これで一応、原作と同じフラグは回収したことになる(でろりんとの対決、ゴメちゃんを取り返す、ロモス王がダイを勇者と認め冠を授ける)。したがって、ストーリー上の破綻はなく、物語の短縮に成功したといえる。
この脚本にした背景には、先述のように、放映スケジュールに関する制約があるのだろう。
推測だが、2020年版に与えられた時間枠は(まだ明らかにはなっていないが)おそらく最大でも2年(8クール)ではないか。となると、完全な原作ストーリー準拠で作られた91年版と比べて、物語の尺を2/3にしなくてはならない。
おそらく、この制約が、91年版と2020年版の最大の違いになってくるだろう(声優陣や音楽などはもちろん違うがそれは自明すぎるので触れていない)。
望ましい楽しみ方?
今回第1話を見て思った原作読者としての感想は「2020年版は、別世界の物語として楽しむのが良い」だろうということである。
おそらくこれから先も2020年版では、原作のキャラクターの活躍やエピソードに関して、かなりの短縮、省略が入ってくるだろう。それに対して「改悪だ」などと意見するのはかんたんなことである。
しかし、そんなことに何の意味があるのか。
たとえ放送枠の制約があったとしても、原作完結から20年以上たった今になって、ダイの大冒険がアニメ化されることになり、そしてその作り手の方々がやる気を持ってベストを尽くして取り組んでいることをまずは率直に讃えたい。
原作をベースにしつつも、2020年版は、別の世界を新たに立ち上げる試みとして楽しむのが、原作ファンのあるべき姿だと思うのだ。
同じようなことは様々な人気漫画やアニメーションで行われている。たとえば「HUNTER×HUNTER」「鋼の錬金術師」といった人気漫画は、2度のアニメ化がされている。古くを遡れば「ドラえもん」だって、現在のテレビ朝日版の前に、日テレ版という最初のアニメ化があったのだ。
原作があり、その上にアニメーションが作られていくときには、おそらく制作者たちは「原作の忠実なアニメ化」ではなく「原作にリスペクトをもった上でのあらたな世界の構築」に取り組むマインドを持っているはずだ。
ファンは、それを理解した上で、意見を伝えていくことが、建設的な文化の発展につながる。私はそう思う。
島を出ることが意味するもの
以上を踏まえた上で、最後に、今回の2020年版ダイの大冒険の第1話に関して少しだけ思ったことを書いておきたい。
原作に描かれた、ロモス城にダイが乗り込むシーンは、主人公ダイにとって、初めての冒険だったのである。
島の特質というのは、まさに日本人が世界と関わってきた歴史を振り返ってみれば顕著なように、「変化は外から来るもの」であり「変化を望むものは島の外に出ていくもの」なのだ。
稲作も、漢字も、仏教も、全ては海外から伝わってきた。
そして、最澄や空海といった僧は、密教の探究のために危険を冒して海を渡っていった。のちの遣隋使や遣唐使も、持ち帰るものがあるからこそ、海を渡った。
デルムリン島に流れ着いた(竜騎士バランの息子でありながら、それを知るのは先である)ダイにとっては、島以外の世界を知らぬまま育った。それは、外に出る理由がなかったからである。
しかし、望まない変化を持ち込み、友達をさらったニセ勇者一行に対して怒り、友達を島に連れ戻すために、ダイは自分の意志で島を出て、ロモスに向かった。
あるべき自分の日常を回復させるための冒険に出る、これがダイの大冒険の一歩目だったのだ。世界の平和のためという目的は、ない。
この最初の島外への冒険があり、そして次にレオナが来たときには、島の中(自分にとってのホーム)が冒険の地になる。
そして3度目の来島者である敬愛すべきアバンと、望まざる4度目の来島者ハドラーの死闘があって、初めてダイの意思による世界平和のための大冒険がスタートしていく。
かような構造で物語を捉えたときに、今回2020年版アニメで最初の冒険の短縮を、どうやってダイの冒険の動機付けとしてバランスさせていくか。
その演出を、第2話以降、期待して見ていきたい。
“ドラゴン”の話
なお、第1話で他にあった新要素としては、ニセ勇者一行に向けた魔法の筒からドラゴンが出てきたという場面があった。
原作ではドラゴンの登場は、まずはアバンの火竜変化呪文ドラゴラムによって出現したドラゴンが最初である。ちゃんとした種族としてのドラゴンは、超竜軍団のドラゴンを預かったキルバーンが街に襲いかかるシーンが初となる。
ドラゴンクエストというゲーム作品においても象徴であり、またダイの大冒険においても極めて大きな意味を持つドラゴン。そのドラゴンを2020年版ではどう描いていくか? これも楽しみにしたい。
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